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空き家対策の切り札は“楽しさ” 「足りないものは、まちを使う」

東武東上線・北池袋駅から徒歩数分、くすのき荘は大通り沿いに建つ。ロビーが開いているときは近所の子どもたちも遊びにやってくる
みそのわの物々交換会。通りかかった親子連れに本多さんが声をかけ、内部に誘った。奥のブースで出迎えるのは管理人の山本直さん
くすのき荘2階のラウンジ。このほかにシェアキッチンや共用シャワーなど、山田荘に足りない機能を補う設備が整えられている
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 総務省の調査(平成25年住宅・土地統計調査)によると全国の空き家は約820万戸。平成30年の野村総合研究所の調査では約1000万戸とさらに増えたという。治安の悪化や火事の不安、まちの活気にも影響する空き家の問題は決して小さくない。国土交通省や自治体が対策に乗り出す一方、住民自ら楽しみつつ負の遺産をプラスに変えようとする動きもある。

 東京都豊島区は全住宅の15・8%にあたる3万370戸が空き家で、その数は23区内トップ。区は空き家バンクの設置やシェアハウス事業を推進するも、目立った成果はあがっていない。

 『くすのき荘』は同区内・上池袋地区にある築43年の建物だ。2年前まで空き家だった木造2階建を、地域住民の手がシェアスペースに生まれ変わらせた。

 1階はロビーと個人用ブース、2階にラウンジやキッチン、管理者の住まい。アーティストからシステムエンジニアまで多様な20数組の人々がメンバー登録し、自由に使いながら場を共有し生かしている。

 『かみいけ木賃文化ネットワーク』と名づけられたこのプロジェクトを引っ張るのは『山本山田』のユニット名で活動する山田絵美さんと山本直さん夫婦だ。NPO職員の山田さんと建築家の山本さんは、古い木造賃貸アパート(以下木賃)のオーナーとなった2016年、地域に点在する同様の木賃空き家を使って「何か楽しいコトを起こそう」と考えた。

 山田さんが親から受け継いだのは築約40年の『山田荘』。風呂なしトイレ共同の6畳間が並び、家賃は3万2000~3万5000円だ。これをポジティブにとらえ、風呂は銭湯、食事は食堂、くつろぐのは公園と、かつての木賃であたりまえだった「足りないものは、まちを使う」ライフスタイルを“木賃文化”として提案する。木賃を拠点に人とまちをつなぐプロジェクトを入居者を巻き込んで立ち上げ、同時に近くで借りた空き家をセルフリノベーションして拠点シェアスペース・くすのき荘をつくった。

 山田荘の入居者はくすのき荘のメンバーでもある。美術家や演劇人が多く、展覧会やイベントでくすのき荘を使うほか制作用に個人ブースを借りることも。共用キッチンやシャワーも日常的に使用する。自室にない機能を歩いて数分のシェアスペースで得る=まちを使う木賃文化が、ここでは実践されている。

 メンバーに共通するのは“不便をも楽しむ姿勢”だ。1月末、くすのき荘1階ロビーにさまざまな物品が並んだ。まちづくりグループ『みそのわ』による、地域に開かれた物々交換会。大通りに面したガラス戸は開け放たれ、持ち寄られた陶器や布地が土間に敷かれたシートに鎮座する。通りかかる老若男女はみなチラチラと視線を送り、ロビーに入って品物を手に取るグループも。

 みそのわの本多麻衣さんが「世代を超えて集まる場をつくり“お互いさま”の関係を作るのが会の目的です」と話す。息子と店番していたフジタナツコさんは「くすのき荘は、この寛容さがいいですね」とにっこりした。

 地域の実情を「隠れ空き家が多いですよ。6部屋のアパートで入居はひと部屋だけとか、日が暮れて灯がつくとよくわかります」と山本さん。管理者不明の建物も多く、地元の不安の種だと明かす。

 そんななか、くすのき荘周辺ではメンバーのひとりが隣接物件を借りて音楽スタジオをつくるなど新たな動きも。まちのお荷物だった空き家は、人が集まり何かを生み出すほがらかな磁場となった。「空き家を使って楽しいコトを起こす、企む。それで自分のまちがちょっぴり楽しくなるかもしれません」山田さんの言葉に「仲間を集め、用途を住居に限定しないで自由に使ってみる。そのことで場が生きてくると思うんです」と山本さんが続けた。

 “楽しさ”でまちを変える。小さくとも熱をはらみ、周囲を巻き込むこのエネルギーは、官製のそれとは違う新たな空き家対策の切り札になるかもしれない。(神戸新聞特約記者・二階さちえ)

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