7人の証言から探る日本代表・西野朗新監督の「思考」と「志向」

 西野監督について語る明神
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 サッカーW杯ロシア大会開幕まで1カ月を切った。バヒド・ハリルホジッチ前監督(65)の電撃解任を受け、日本代表を託された西野朗新監督(63)は1996年アトランタ五輪での「マイアミの奇跡」、J1歴代最多270勝などの実績を誇る。18日に30人弱の国際親善試合・ガーナ戦(30日・日産ス)メンバー、31日にはW杯最終登録メンバー23人が発表される中、新指揮官の「思考」と「志向」を7人の証言で探った。

  ◇  ◇

 【伊東輝悦の証言】

 「西野朗」という名を歴史に刻んだのは1996年7月22日。日本を28年ぶりの出場に導いた五輪の初戦でブラジルを撃破した「マイアミの奇跡」だった。緻密な分析でセンターバック(CB)とGKの連係が弱点と判断。DFアウダイールとGKジダの衝突によるこぼれ球を、中盤の底から駆け上がったMF伊東輝悦が押し込んだ。

 世紀の番狂わせの決勝点を決めた男は43歳になり、白髪も目立つようになった。西野新監督就任によって22年前の映像が頻繁にテレビに映り、「自分も年を取ったな~」と頭をかきながら、「あの分析があったから、あそこに走れたのだと思う。もう20年も前。よく覚えてないですけど、そういうことでしょう」と苦笑した。

 今だ現役。J3アスルクラロ沼津でプレーする。アトランタ五輪代表でアタッカーからボランチにコンバートされた。最初は「嫌だった」というが、今は「感謝している」と伊東は言う。

 「プレーの幅が広がったし、それによって選手としての寿命が延びた」。昨年末、当時の仲間で集まった時に配置転換の意図を初めて西野監督に聞いた。返ってきた言葉は「できそうだったから」。マイアミの奇跡の終着点となったコンバートだったが、20年以上の時を経た答えに腰砕け。まな弟子は「(言葉の短い)西野さんらしい」と笑った。

 【明神智和&北嶋秀朗の証言】

 アトランタ五輪後、98年に柏の監督に就任。J監督としてキャリアをスタートさせた。2年目にはナビスコ杯(現ルヴァン杯)を制覇。ピッチ外にも目を光らせたという。西野監督の下で柏、G大阪と計10年間プレーした明神智和(現J3長野、40)は苦い思い出を明かした。

 「(99年の)開幕から2試合連続で先発だった。だけど、2試合目のアウェー福岡戦の後でちょっと(夜)出掛けて…。(中2日となった)3試合目は出来が悪くて前半で代えられた。そこからしばらく先発から外された」

 3試合目が終わった後、青年監督から「動きが悪かった。なぜか分かっているな」と告げられたという。明神は「はい」とひと言。「外に出るなとは言わない。ただ試合に影響が出るからな」と諭された。プロはピッチ上のプレーが全て。そのために何をすべきか教えられたという。

 2000年にJ1柏で18点を挙げ、ストライカーとして開花した北嶋秀朗(現J2熊本コーチ、39)も「西野さんは優しいようで冷たい。で、冷たいようで優しい。それが絶妙。知らないうちにこっちが感情をコントロールされていた」と話す。ハリルホジッチ前監督のように選手を管理、縛りはしない。プロとして認める一方で、ピッチでは言い訳を許さない。

 【ルーカスの証言】

 02~11年。G大阪で10年間の長期政権を築き、5つのタイトルを手にした。FC東京、G大阪で10季プレーした元FWのルーカス(39)は懐かしさを口にした。「忘れられないのは2010年。私にとってG大阪のラストイヤーだった。その最後の試合で私をキャプテンに任命してくれた」。花道を用意してくれる心意気。「そういう気遣いができる人」と語る。

 監督として円熟期に入った時代を知るルーカスは新生日本代表を予想した。「おそらく4-4-2。FWは1トップタイプと、1・5列目タイプの選手を並べる」。そして、中心軸には「本田圭佑」を推薦した。

 「西野監督のサッカーには必ず核になる選手がいた。その意味では本田が中心として引っ張っていくべきだと思う。彼にとって最後のW杯になる。彼ならサプライズを起こしてくれると信じている」

 G大阪時代は遠藤、橋本、明神、二川の「黄金の中盤」が軸だった。だからこそ、「(助っ人など)オプションが変わってもチームの軸は変わらなかった」。日本代表で中心に誰を据えるのか。絶対的な中心選手を据えなかった前任者と違い、最大の注目点になる。

 【久米一正&秋葉忠宏の証言】

 久米一正(現清水GM、62)は柏と名古屋で強化本部長、GMとして西野監督を支えた。日立の同期入社。新監督は天才肌のイメージが強いが、違った側面を強調する。

 「よく考えて、言葉を選ぶ。考えすぎて言葉が出てこない。すごく考える人。ソロバンは段級の持ち主で計算高い。彼は確率論で動く」

 J1歴代最多270勝は計算し尽くされた結果だという。「ミスが少なく、ダイレクトパスが出せる選手。逆サイドまで正確に蹴ることができる技術の高い選手が好み」と明かす。計算できる選手の特長を生かし、得点につながる道を探し当てる。沈思熟考タイプだ。

 アトランタ五輪代表で、コーチとしてはリオデジャネイロ五輪も経験した秋葉忠宏(現U-19日本代表コーチ、42)は同じ指導者の立場となり、勝負師の顔を発見した。「節制とか我慢が好きですね。何かを我慢しないと、感覚が研ぎ澄まされないと。勝負の時は大好きな白飯を断つと聞きました」

 自身を追い込み勝負に飢え、勝負勘を研ぎ澄まし、計算する。偶然の奇跡はない。ピッチ内外で手を打ち、確率を上げ、勝利を手にする。31日に発表されるW杯メンバーは、西野流「勝利の方程式」を構成する23の変数となる。

 【楢崎正剛の証言】

 西野監督には独特の言語感覚がある。元日本代表で名古屋のGK楢崎正剛(42)が証言する。「『ボールを半転させてから』という言葉をよく使った。最初はみんな『?』。昔はボールをちょこんと触って半転させてからキックオフだった。そこから『始める』『始まる』という意味だと分かった」

 また、ほかには「ジエンド」が有名。これは「自分たちのエンド」つまり「自陣」という意味だと解説する。「ジ・エンド」=「終わり」ではないのだ。日本代表ではどんな語録が飛び出すか、要注目だ。=敬称略=

 ◆西野 朗(にしの・あきら)1955年4月7日、浦和市(現さいたま市)出身。現役時代は攻撃的MFで、浦和西高から早大に進み、早大時代に日本代表に初選出された。78年に日立製作所(柏の前身)入り。90年に現役引退後、U-20、96年アトランタ五輪代表監督を務め、同五輪ではブラジルを破る「マイアミの奇跡」を起こした。その後は柏、G大阪、名古屋などでJ1監督。G大阪では2005年にJ1制覇、08年にACLで優勝するなど、国内外のタイトルを複数手にした。

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