香川が輝いた理由 C大阪コーチが語る
2013年2月6日
線も細く、ひときわ小さな中学生が、高校生に交じって遜色のないプレーを見せていた。
小菊氏「ボールの持ち方、ドリブルの姿勢など特殊な才能を見せていました。オフ・ザ・ボール(ボールを持っていない局面)の動きも魅力的でした」
高校生になった香川はC大阪の練習に呼ばれるようになり、“原石”は磨かれていく。
そして高校2年時、香川の運命が大きく動きだす。
小菊氏「見るたびに早く入団させたいと思うようになりました」
無名だった香川の存在が全国に知られ始める。新潟やFC東京なども練習参加の要請を出し、6、7チームが獲得に動きだしたという情報が、小菊氏の思いに拍車をかけた。
2005年9月、高円宮杯全日本ユースの浜名高戦。この試合に小菊氏は、強化部の梶野智氏(現強化部長)を伴い香川の視察に訪れる。
小菊氏「僕はずっと見ていたので間違いないと確信があった。でも梶野さんは初めて。頼むからいいプレーをしてくれと祈っていました」
そんな心配は杞憂に終わった。
小菊氏「抜群でした。今までで一番の出来。まさにキレキレでした」
梶野氏も香川のプレーに一目ぼれしたという。ついにC大阪は、香川獲得を決断する。
高校2年生への前例のないオファーだったが、香川自身が挑戦を熱望。両親も息子の意思を尊重し、FCみやぎも快くエースを送り出してくれた。
06年2月、C大阪の香川真司が誕生した。
今では信じがたいが、当時の香川にはスピードがなかったという。
小菊氏「それは本人も自覚していました。実際、入団したてのデータでもかなり下の方でした」
しかし香川は地道に課題を乗り越え、スピードを武器とする選手へと変貌を遂げていく。
小菊氏「間違いなく積み重ねた努力です。筋トレやフィジカルトレを、嫌な顔一つせず積極的にやっていました。あとはボールの置き方、もらう前の準備やファーストタッチなどの工夫を重ねた結果です」
プロ1年目の06年は出場なしに終わった。
小菊氏「悔しい思いはあったでしょうが、真司にとっては貴重な1年になったはず。大好きなサッカーに24時間関われる幸福感の方が大きかったかもしれません」
寮の部屋で、1人でインタビューの練習をしていたという逸話も残る。自らの将来を、その頃からから描けていたのだろう。
勝負の2年目となるはずだった07年。香川は左サイドバックでプレーしたり、紅白戦にすら出られないこともあった。“干されていた”日々。そんな香川の人生を一変させる人物が現れた。
レビー・クルピ。シーズン途中で監督に就任すると、すぐさま香川に興味を示し、攻撃的MFでの起用を決めた。
当時、香川はボランチでプレーしており、小菊氏は今で言うG大阪の遠藤のような、“チームの心臓”としての成長を期待していた。
コーチ陣は無謀だと口をそろえたという。
小菊氏「前に行く力がなく、個で破れない選手でした。真司も評価されてうれしい半面、なぜ自分が前なのか、ポジションに対してストレスを抱えていました」
香川の思いを伝えられたクルピ監督は答えた。
「ベテランになったら、いつでもボランチに戻ったらいい。今は前線でチャレンジしなさい。それが明るい未来につながっていくんだ」
指揮官との対話を経て、ようやく香川は自らの起用法を受け入れた。
小菊氏「コミュニケーションをきちんと取れるのも真司の強みです。ブラジル人選手が固まって食事をとっている中に、言葉も分からないまま1人で入っていくこともできました」
その後の飛躍は既に知られている通りだ。
小菊氏「真司以上の才能を持った選手はたくさんいました。ただ、彼ほど努力ができる選手は出てこなかった。サッカーを好きでいるというのは、当たり前のようで当たり前ではないんです。職業になると、どうしても責任や重圧が生じ、そこから逃げてしまう。それでも真司はサッカーが大好きで、おそらく今も愛してやまないでしょう」
弱点を克服するための不断の努力、高いコミュニケーション能力、そして変わらぬサッカーへの愛情。それらが人生の要所で人との出会いを呼び寄せ、日本代表の10番、香川真司が生まれた。
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