【井上尚弥-長谷川穂積氏対談2】メイウェザーみたいになるやろうな
デイリースポーツ・ボクシング評論「拳心論」で健筆をふるう元3階級制覇王者の長谷川穂積氏(38)が、WBO世界バンタム級王者、井上尚弥(25)と新春対談を行った。井上は、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)の初戦(10月7日・横浜アリーナ)で元WBA世界バンタムスーパー級王者のファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)を1回1分10秒KOで瞬殺。世界戦7連続、同11度目のKO勝利、同最速勝利と記録を次々と塗り替えた。今年は米国へ羽ばたく青写真の“モンスター”。その素顔に、親交の深い長谷川氏が迫った。以下は対談その2。
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井上尚弥(以下、井上)「自分は映像で相手を見るんですけど、その時にすごく過大評価するんです。寝る前のイメージトレーニングとかでは、自分のパンチが当たらないとか、パンチをもらうイメージをめちゃくちゃするんです。するとリングに立つとあれ?てなる。(ポジティブに考えると)できなかった時に焦るので」
長谷川氏(以下、長谷川)「たいしたことないってなるんやな。夢は見る?」
井上「めっちゃ見ます!」
長谷川「負ける夢?」
井上「両方見るんです」
長谷川「僕も両方見てた。負ける夢を見た時は夢でよかったと思うけど、勝った夢見た時はめっちゃショック。夢やったんやって。初めて話した時にすごく覚えているのは、試合前に僕は怖くて怖くて仕方ないのに、井上君は楽しみで寝られへんって」
井上「それは変わらないです。遠足の前のワクワクして寝られない感じです」
長谷川「それはほんまにすごい。普通は怖いもん。前に、プロを相手に遊びでパンチをよけまくっている動画も見たことがあるけど、相手は本気で来ているのにまったく当たらない。あれは僕のイメージでは、パンチ(力)がなくてよけるのがうまい選手がやる動き。それをできるのにパンチがあってテクニックがあって空間も支配して…。ずるいなあ」
井上「お父さんがやっていた前のジムで、高校卒業したくらいの動画ですね」
長谷川「何が違うんかな?打つ時どんな感じ?タイミングはわかるんやけど」
井上「何だろ…。しっかり下半身から打つイメージはしてます。でも、アマチュアの時はできなくて、プロでも最初はその名残で下半身が浮いたままちょこちょこ打っているような感じで。田口さんとの試合(4戦目の日本王座戦)が終わってから、これじゃダメだと思って、ちょっとずつ重心を下げて打つ練習をし始めて」
長谷川「確かにちょっと変わってる」
井上「全然違いますね。最初からハイテンポでポイントは取れるけど倒せないボクシングです。(今は)下半身をグッと下げて、フットワークは残したまま、打つ時は腰を低くしてしっかり軸をひねるイメージです」
長谷川「まだ25歳やもんな。35までやるんだっけ?」
井上「それくらいやりたいです」
長谷川「(元5階級制覇王者の)メイウェザーみたいになるやろうな」
長谷川氏と井上は同じバンタム級。時期が会えば直接対決していた可能性も。仮想対決は-。
長谷川「(自分なら)スピードと手数で4ラウンドまでポイント取ってあとは逃げ切る。来るからね」
井上「1ラウンドは見切るまでしっかり様子を見ますね。どの選手もリングに立ってみないとわからないところあるんで」
長谷川「(井上とは)みんなやりたいですよ。僕もやりたかったですし、山中(慎介)が一番強かった時の井上尚弥との試合も見たかった。でも、井上君は打たれてないから、これから長いことできる。これが一番」
井上「打たれたらダメだと一番言われるんです。スパーでも、打たせると(父の真吾トレーナーに)めっちゃ怒られる。(パンチを)もらってもいいという感情だけでも言われるんです。自分のスタイルを貫いてもお客さんは楽しんでくれるって」
長谷川「間違いないね」
所属ジムの大橋秀行会長は、ボクシング界初の国民栄誉賞を目標に、競技の枠を超えた存在になることを願っている。
井上「今は全然考えていないです。でも、底上げをしたいとは思います。いくら頑張ってもサッカー、野球にかなわないのは悔しいじゃないですか。ここまでやってるんだったら、誰にでもわかるような存在になりたいし、そうなればこれからやる子も増える」
長谷川「本人は一番強いやつに勝っていくだけやもんね」
今年3月に米国で開催される見込みのWBSS準決勝ではIBF同級王者のロドリゲス(プエルトリコ)と対戦する。米国のボクシング専門誌「リング」(19年2月号)では表紙を飾るなど、本場のスターダムを上りつつある。
長谷川「こう言うと相手が弱いみたいやけど、WBSSでも(井上は)2つくらい抜けていると思うから、どれだけインパクトを与える試合をしてくれるかなと楽しみ。バンタムに敵がいなくなったら(階級を)上げたらいいんじゃないかな」
WBSSの先には本格的に世界進出の可能性もある。
井上「その先には、どんな景色があるのかなってそこに興味があるくらいです。終わった後に変わっているのかなって。(戦いの舞台は)どこでも。英語はやりたいんですけど進まないんです」
長谷川「英語は僕の方が勝ってますよ。あと卓球と」
井上「球技は何でもできます。卓球、うまいんですよ」
長谷川「卓球で負けたら、もう二度とラケット持たない」
井上「いとこがインターハイや国体に行っているんです」
長谷川「そら、うまいわ…」(終わり)