出血も痛みもない「非観血型」の血糖測定器は糖尿病患者の“福音”に
「町医者の独り言・第22回」
出血を伴わない、医学用語で言う「非観血型」の血糖測定器の使用が、9月1日から条件を満たせば可能となりました。非常に画期的なことなんです。
今までの血糖測定は、指先を針で刺し血液をにじみ出して血糖測定をしていました。非観血型の機械は優れもので、チップの入った機械を上腕に貼り付け、適宜、血漿(けっしょう)内の血糖を測定する。チップの入った機械には針が付いていて、貼り付ける際に身体内に挿入されても痛みは感じない。お風呂にも入れるし、運動制限もないんです。
そのチップに、モニターの機械をかざすと現在の血糖値がすぐに確認できます。チップ内は8時間の血糖のデータを記憶できて、仕事中であれば、モニターの機械をチップにかざさなくても、後から変動を確認することも可能なんです。さらに、血糖の変動が随時確認することが可能となりますので、多くの糖尿病の患者さんに“福音”がもたらされるであろうと思っています。
以前にも説明しましたが、糖尿病は大きく分けると1型糖尿病と2型糖尿病があります。1型糖尿病は、体内で糖を利用するために必要なインスリンが生成される膵臓(すいぞう)のβ細胞が、なんらかの原因で破壊される怖い病気で、小児から思春期に発症することが多いんです。ただ、日本での割合は5%以下という珍しいタイプです。
残りの95%が2型糖尿病で、過食、運動不足、ストレス、加齢などの環境因子が原因で発症します。特に暴飲、暴食は原因になり、遺伝的要因も強いために、血縁関係に糖尿病の人がいれば要注意です。また、日本人は欧米人と比べると血糖を下げるホルモンであるインスリン分泌能が低いため、糖尿病になりやすいとされています。
我々の周りには、高血糖となる様々な食べ物、飲み物があふれています。ペットボトルの飲料水、スポーツドリンクなどは思っているよりもたくさんの糖質が入っており、要注意です。食事制限はできていても、熱中症対策のために毎日スポーツドリンクを2本飲んでいた患者さんに糖尿病の増悪を認めたり、果物の過剰摂取で発症してしまった患者さんも実際にいました。
ご飯などの炭水化物の過剰摂取も要注意ですね。食事前に野菜を最初に摂取すると血糖の急上昇が抑えられるので、糖尿病の患者さんには推奨されています。食事の内容や摂取スピードなどによっても血糖上昇の具合は異なります。「非観血型」の測定器は、血糖の変動をリアルタイムに観察できて、食事制限を無意識に実行できるので、今後は糖尿病治療の一端を担うのではないかと期待しています。
飽食の時代です。今後も多くの糖尿病の患者さんが現れるのは必至ですが、こういった科学の発達が私たちの健康を支えてくれているのだと、これを書きながら、改めて先端医療を担っている人たちに感謝しました。実は私の父も糖尿病を患っています。生活習慣の乱れは、糖尿病の発症につながります。「注意をしなければ…」と再度、自分に言い聞かせながら、ウィスキーのグラスをテーブルに置きました。
◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。