子供にウソをついて治療、検査をしたらダメ!ある少女と我が子の場合

 「町医者の独り言・第21回」

 ある中学生の女の子が私の前に座り、診察を待っている。背もたれのあるイスに身を委ねている少女は、高熱のためなのか顔色が非常に悪く、震えているようにも見える。私を見る目は引きつっていて、明らかに恐怖を押し殺している感じだ。

 私の「顔」が怖いのか?

 私の容貌はお世辞にも優れているとはいえず、理髪店で座って鏡を見ていると気分が沈んしまう。だから、私はいつもすぐに目を閉じ、異次元の世界に行くようにしている…話がそれたので、もとに戻そう。

 予防接種のときに、私を待つ中学生、小学生、あるいは幼稚園の子供の多くは親御さんと話をしながら笑っているか、緊張しながら待っているのだが、明らかにそれらと違う表情の子もいる。これから行われるであろう医療行為に対する恐怖におののいているのだ。

 冒頭に書いた高熱の女の子も恐怖、緊張から神経のバランスが崩れて、検査の話をしているだけで意識が朦朧(もうろう)となり、座っていられなくなった。いわゆる貧血症状だ。すぐにベッドに寝てもらい、しばらく休んでいるとなんとか回復した。

 私は再びその子に、どうして検査が必要なのか、どういった検査をするのかを伝えた。お母さんはその説明をしている最中に慌てふためき、検査や診察も受けずに帰宅しようとしたが、事態は急変した。私と母親の会話を断ち切るように、さっきまでフラフラだった女の子自身の口からはっきりと「検査を受ける!検査を受ける!」という言葉が出たのだ。

 お母さんは非常に驚き、私もびっくりした。でも、素直にうれしかった。つたないながらも、私が必死に伝えたかった“思い”が、少女が病院に対して抱いていた恐怖心を少しでもやわらげたことを確信できたからだ。

 検査後は、しばらく待ち時間があったが、その間に親子で色々と話をしていたようで、病院を出るころには、熱も下がっていないのに、明らかに元気になって帰宅された。ちゃんと説明をすれば少しでも恐怖をやわらげ、治療につなげていくことは可能なんです。

 子供が幼少期に覚えた病院に対する恐怖は、意外に根深く残っているものです。私の子供が感染性胃腸炎の診断で、小児科の先生に点滴をしてもらうことがありました。私は子供に「大丈夫、痛くないから心配しないで」と話しかけた。すると担当の小児科の先生はすかさず私に、「先生、勝手なこと言わないで。先生みたいにウソをいう大人がいるから、子供さんが病院に来たくなくなるんだよ。身体に針をさすのだから痛いにきまっているでしょ」と怒られたことがあります。

 確かにその通りです。痛くないと言って病院に連れて行って予防接種を受けさせ、辛い検査を受けさせたりすること、子供になんの説明もせずに羽交い絞めにして治療、検査をすること(そんな病院、医院はもうないと思いますが…)、それらはしてはいけないことだと痛感しました。

 子供たちは、我々大人が思っている以上にすべてにおいて繊細で、優秀です。もちろん、礼節に関しては大人が見本を示さないと駄目ですが、それ以外の感覚は大人より優れたものがあると私は思っています。ですから、ウソをついたり、だましたり、あるいは無理矢理に治療、検査を行うことは許されないことです。

 3歳、4歳くらいで言葉が理解できる子供さんであれば、予防接種などの際には、痛みがあるけれど、少しの間だけ我慢しようね、動くと危ないからね…などの説明を時間を惜しまず丁寧にすれば、多くの場合、子供は動かずに我慢をして素直に注射を受けてくれます。

 見た目は幼児でも、しっかりとした人格を持っていると考えて接した方がいいのです。中学生の女の子のケースと同様、幼児と接する際にも気をつけなければならないと再認識した次第です。

 ◆筆者プロフィール 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。

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