元阪神のドラフト１位でＢＣリーグ・山梨のＧＭを務めている山村宏樹さん（４９）は阪神を退団後、近鉄、楽天でプレーし、２０１２年１１月に現役生活に終止符を打った。引退当時の監督だったのは、星野仙一氏。東日本大震災という未曾有の災害発生の年から指揮を執った闘将との鮮烈な思い出、引退を決意するまでを振り返った。

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　星野氏が楽天監督に就任して迎えた久米島キャンプ。山村さんらベテラン組が調整していた２軍の練習に、星野監督が突然やって来たことがあった。

　ブルペンでベテランたちの投球練習を視察し、個人ごとのキャンプでの投球数を書き込んだ球数表を確認した指揮官は、夜に投手陣に怒りの集合をかけたという。

　「ベテラン組はある程度自由に調整を任されているし、２軍で結構投げ込みをしてるじゃないですか。１軍は若い選手が多くて、投げ込みをしてなかったんですよ。それで怒ってファームの練習を見に来てたんです。で『なんでジジイがいっぱい投げて、おまえら投げてないんや。明日から全員１００球投げろ』って」

　８年ぶりに現場復帰した星野監督の、うわさに違わぬ闘将ぶり。「怖かったですね。ユニホームを脱いだら優しい人なんですけど、ユニホームを着てる時は本当に怖かった」。初めてのカミナリを回想した。

　東日本大震災発生後には星野監督の強権ぶりに戸惑いを覚えたこともあった。

　チームは１、２軍ともに遠征中で仙台を離れていたため、選手たちは地元に帰ることを強く望んでいた。

　「選手会としては子どもや親、家族がいるから１回帰りたいと言ってたんです、野球どころじゃないと。でも星野さんはいろんな情報を知ってるから、帰っても何もできないと分かっていて。嶋（基宏）や、（山崎）武司さんらと一緒にミーティング部屋に呼ばれてすごく怒られたんです」

　部屋に置かれていたホワイトボードには、仙台にいる、それぞれの家族をバスで関東に移動させる細かな予定がびっしりと書き込まれていた。

　「監督は『おまえらは野球しかねえだろ』って言いながら、そういう段取りをしてたんです。当時は思わなかったですけど、あれで救われた人はいっぱいいた。あとあと振り返ると、星野さんじゃなかったら、まとまりも何もなかった」

　軋轢を生むこともあった指揮官の強烈なリーダーシップが非常時に発揮されたことを思い起こした。

　２０１１年シーズンは当初予定より１８日遅れの４月１２日に開幕した。山村さんはベテラン組の中で１軍に昇格するのが一番遅くなったが「使ってくれましたね」。ただ、２１試合に登板したその年が結果的に１軍での最後のシーズンとなった。

　翌年は右手首の故障のため登板できない状態が続き、夏には球団と今後についての話し合いを始めていた。

　「星野さんはリハビリをして後半から投げればいいと言ってくれてたそうなんですけど、最後は自分で決めました」

　阪神から始まったプロ野球人生に幕を下ろす時が訪れていた。

　星野監督には直接、決意を伝えに行った。山村さんの年齢を尋ねた指揮官は「俺も３６歳で引退した。これからが長いから頑張れよ」とねぎらいの言葉をかけてくれたという。１１月２４日のファン感謝祭。あいさつに立った山村さんは「こんなにまさか長くできるとは思いませんでした」と１８年の現役生活を送れたことへの深い感謝を家族やチームメート、ファンらに伝えた。

　当初打診されていたという球団の仕事はなくなり、仙台在住の解説者として山村さんは第二の人生をスタートさせた。それを知った星野監督は一肌脱いでくれたという。「僕がお世話になってるからって、東北のテレビ各局に電話をしてくれたんです。勇退したあとにも、すぐに（山村さんの出演）番組にも来てくれて」。指揮官の温情が心にしみた。

　引退の翌年、星野監督率いる楽天は球団創設９年目で待望の初優勝を遂げた。山村さんは解説者としてその軌跡を見届けている。

（デイリースポーツ・若林みどり）

　◇山村宏樹（やまむら・ひろき）１９７６年５月２日生まれ。山梨県出身。甲府工から９４年のドラフト１位で阪神に入団、９８年９月１７日の広島戦でプロ初勝利。２０００年に近鉄にテスト入団し、同年にオールスター出場。０１年には優勝に貢献し、日本シリーズ出場。０４年の分配ドラフトで楽天入りし、２０１２年に引退。プロ在籍は１８年で２２５試合に登板、通算３１勝４４敗２セーブ、２０ホールド。防御率５・０１。今年からＢＣリーグ・山梨のＧＭを務める。著書に「楽天イーグルス　優勝への３２５１日－球団創設、震災、田中の大記録…苦難と栄光の日々」。