【野球】なぜキャンプ初日にブルペンに入らない投手がいるのか 投げ込み数減少とともに近年のトレンド化?
プロ野球の春季キャンプがスタートし、沖縄、宮崎を中心に各球団が開幕に向けた新たな一歩を踏み出した。気になったのは、キャンプ初日にもかかわらず、ブルペン投球を行わなかった投手がいたことだ。
阪神では昨季自己最多の13勝を挙げた才木に加え、昨季はプロ入りワーストの4勝と不振に苦しんだ伊藤将、広島でも大瀬良や床田が投球練習をすることはなかった。
また、ブルペンに入った投手の中でも、巨人・戸郷が9球で切り上げたり、4年ぶりにキャンプ初日に投球練習を行った広島・森下は19球、DeNA・山崎が29球、阪神・西勇が30球と、初日とはいえ、球数少なく引き揚げる投手も多かった。
一方で、2022年度ドラフト1位の広島・斉藤が投手陣最多の110球を投げたのが目を引き、30球ながら最速152キロを記録した中日・高橋宏も目立った。日本ハムに新天地を求めた前中日の福谷が69球、同じくオリックスに移籍した前広島の九里も60球、中でも楽天を自由契約になって巨人に移籍した田中将はネットスローながら、久保巡回投手コーチのマンツーマン指導で200球以上を投げ込む姿もあった。
「肩、肘は消耗品」という考え方が広まり、近年では投げ込み数の減少が加速の一途をたどっているように思う。歴代3位の通算320勝を挙げている阪神OBの小山正明氏は投げ込み推奨派で、「バッターを抑える筋力は投げることでしか身に付かないし、体が覚えない。筋力トレーニングだけでは、本当に必要な力を得ることはできないと思うよ」と語る。
同じく阪神OBの中田良弘氏も「近年はいろんな理論やデータが普及して、投げ込みは不必要、投げ込みは悪、というような考え方もあるようだけど、実績のない投手においては、ステップアップしていくには、ある程度の投げ込みは必要だと思うな。もちろん、肩、肘を壊さない程度の球数でね。ただ、肩、肘は消耗品という考えは元投手として理解できるんだけど、果たして肩、肘を消耗せずに引退に追い込まれた選手がどれほど多かったことか。それを考えると、やっぱり投げ込んだ方が後悔は少ないのかなとも思うよね」との考えを示した。
DeNAの三浦監督は現役時代、キャンプ中に1日200球を超える投げ込みデーを設けるなどして、通算172勝を挙げる下地を作ってきた。ただ、チームによって違いはあるが、昨今は「投げ込みは必ずしも必要ではない」との考えを持つ首脳陣がいることも事実だ。
投球練習の主眼に何を求めるのかもポイントだろうか。腕の振り、リリースの感覚、肩、肘、股関節などの体の使い方に重きを置くのか、それとも純粋に球数を多く投げられる体力を養おうとするのか。
投げることでしか付けられない力があるという考えも正解だろうし、投げすぎてシーズン前に疲労をため込んでいたら元も子もないという発想も理解できる。身長、体重、柔軟性、骨格がひとりずつ異なるように、正しい答えも人それぞれによって異なるとも言える。いろいろなアプローチがある中で、いかに早く身につけることができるか、どうやってコツをつかむか。ひと握りの人間にしかプロの世界に飛び込むことが許されない中、そんなプロたちも最適解を求めて試行錯誤を繰り返しているのだろう。(デイリースポーツ・鈴木健一)