【サッカー】C大阪・大久保 多くの人に愛された最強ストライカー

 20年間の現役生活に終止符を打つと決めたJ1のC大阪FW大久保嘉人は27日、ホーム最終戦となる名古屋戦で先発出場して85分間プレーした。史上最多となるJ1通算191得点を記録しているストライカーは、試合後の引退セレモニーで本拠のサポーターに別れを告げた。

 よく笑い、よく怒り、よくゴールを決め、よくカードをもらう。そして何よりも、よく仲間から愛される選手だった。異例とも言えるが、1週間前に元チームメートの川崎の選手たちに当時の背番号にちなんで「13回」の胴上げをされた大久保はこの日、今のチームメートから現在の背番号にならって「20回」も胴上げされた。22日の引退会見、さらにこの日のセレモニーでも、過去に所属したクラブでのゴール映像が用いられた。ふと見渡せば周囲にはサッカー界の内外含めての仲間がたくさん。引退会見の会見場には、とても1人の選手が集めるとは思えないほど多くの花が集まった。そんな大久保の魅力が詰まっいてる瞬間が、引退発表から続いている。

 豪放磊落(らいらく)なピッチ内とは裏腹に、実に繊細。「どんなゴールでも1点は1点」という信念を持ち、日本人らしからぬ“外す勇気”を持ってシュートを打てる生粋のストライカーだが、重圧のかかるPKキッカー時には「最初に外してしまうことをイメージする」というほど慎重派だ。野性味あふれるスタイルで芝生を駆けるが、大事な試合前に集中力を高めるために聞くのは意外にも古典音楽の名曲、パッヘルベルのカノン。美しくも静かな調べで自らを奮い立たせ、闘いの舞台へと歩みを進めていた。

 今となっては恥ずかしい話だが、互いに20代だった昔、酒に酔った勢いで「大久保嘉人にとってサッカーとは?」といった青臭い質問をした。大久保の答えはシンプルだった。「仕事、やね。俺は家族を養ってかんといけん、プロやから」。プロ入り前からスター街道のど真ん中を歩んできたのに、サッカー小僧であるだけではななくシビアなプロフェッショナリズムも持っていたことが新鮮だった。

 いつでも、誰にでも飾らない言葉で自らの思いの丈を語る。言葉を発することが窮屈になりつつある現代社会では、それはまぶしいものであり、また人を引きつけるものだった。個人としても得点を決めた際の良い記事だけではなく、耳の痛い記事も書いたと思うが、引退を決めた後の電話口で言われた「今までありがとうな。お前ら記者がいなかったら、俺はここまで注目されるような選手になれなかったわ」という言葉が胸に刺さった。

 擁護できないような、眉をしかめるラフプレーもあった。ただ、いくつものクラブで練習後に丁寧にファンサービスを行う姿を試合よりも長く見てきたからこそ、ついつい立場を忘れて応援したくなる。現役の試合数は残りわずかとなったが、悲願とするチームタイトルとなる天皇杯は残っている。多くの人に愛される最強ストライカーに、最高のエンディングが訪れることを期待したい。(デイリースポーツ・松落大樹)

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