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【野球】骨折でも強行出場「居場所を奪われる」 グラウンドに立つことにこだわった鳥谷敬

 ロッテの鳥谷敬内野手(40)が、今季限りでの現役引退を表明した。阪神、ロッテで現役生活18年間、通算2099安打。記録と記憶に残るレジェンドだが、その背景には「鉄人」とも呼ばれた心と体の強さがある。

 2017年5月25日の巨人戦。「代打・鳥谷」のアナウンスに、甲子園球場は地鳴りが響いた。六回2死から打席に立つ姿に、客席では涙するファンの姿もあった。顔面を覆う黒いフェースガード。結果としては三ゴロに倒れた。だが、ファイティングポーズを崩さなかった鳥谷の姿に、奮起したナインが一丸でG倒を決めた。

 “事件”は前夜にさかのぼる。0-0で迎えた五回、1死三塁。打席に立った鳥谷はマウンドの吉川光から顔面死球を受けた。1ボールからの2球目、144キロがスッポ抜けた。鼻からは大量の血が滴り、トレーナーが用意した黄色のタオルは、すぐ真っ赤に染まっていた。交代やむなし-。誰もがそう思ったシーンだが、グラウンドでは驚きのやり取りが行われていた。

 現シアトルマリナーズのトレーナーで当時、阪神でチームトレーナーを務めていた伊藤健治氏が明かす。

 金本知憲監督(当時)「どうや?」

 鳥谷「大丈夫です。いけます!!」

 鼻から「蛇口をひねったような」(伊藤氏)血が流れる中、鳥谷は一塁に向かおうとした。だが、トレーナー判断で制止し、交代。すぐに検査を受けることになった。「普通、あれだけの衝撃を受けて血が流れたら人は座り込みます。でも、トリは歩いてロッカーまで戻って、自分でシャワーも浴びた。僕にも弱い姿は見せなかったです」。病院に向かう車中でも、かたくなだった。

 「明日は試合に出られる。絶対に(監督に)止めないでください」

 前年、連続試合フルイニング出場は667試合で途切れたが、この時点で連続試合出場は歴代2位の1794試合で継続中。記録を危ぶむ声もあったが後日、鳥谷は「出なければ居場所を奪われる世界」と語っている。記録だけに固執するならば、この時点で途切れたかもしれない。強烈なプロ魂故の言動だが、トレーナーとしては適切な判断が必要だ。

 「初見からして鼻骨骨折はあると見て取れた。出血量がすごかったので、眼窩(がんか)底骨折などでなければいいな…と。こちらの判断としては、その他に異常があるかどうかでした」

 翌日、発表された検査結果は「鼻骨骨折」。だが、実は骨折は2カ所だった。「衝撃で(鼻の)反対側も折れていたんです」。幸いにも脳など、その他に異常はなかった。ただ、チームドクターの見解も「絶対安静」。それでも鳥谷は、翌戦に出場する道を探った。

 条件は止血することと、固定器具の装着。既製品はない。球団トレーナーのネットワークで、大阪・門真市にある会社が制作を快諾した。後に「バットマン」と呼ばれる固定器具を作るため、翌朝6時に待ち合わせて向かった。この時にも鳥谷から念を押された。

 「他のケガで試合に出ていた時の方が痛かった。鼻が折れることなんて、なんてことないですからって。2日間、ずっと一緒にいたけど、試合に出ない選択肢はなかったです」

 腰骨や肋骨(ろっこつ)を折っても、遊撃を守り続けた男の言葉には説得力もあった。フェースガードを完成させ、グラウンドに向かうと練習にも参加。監督室に呼ばれ「出られます」と出場を直訴した。最終的に指揮官はスタメンを見送ったが、その意気に打たれ代打出場を決めた。

 金本監督も現役時代に左手首に死球を受け、軟骨を損傷しながら翌戦で2安打した。記録、結果を超越したプロアスリートの矜恃(きょうじ)がここにある。「ケガはケガと思わなければケガじゃない」。金本から鳥谷と受け継がれていた鉄人の系譜。後を走る若虎たちに、しっかりと受け継がれているだろう。(デイリースポーツ・田中政行)

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