【相撲】貴景勝の姿に感じた“男の美学”ド根性で挙げた8勝

 大相撲秋場所で大関貴景勝(25)=常盤山=が、4度目のかど番を乗り越えた。初日から3連敗スタートしながら2勝4敗で迎えた7日目から6連勝。すさまじい、ド根性の反攻だった。

 名古屋場所で首を負傷。調整も遅れ、明らかに突き押しの馬力が不足していた。ぶちかましが信条の突き押しが踏み込めなけば大関の相撲は取れない。

 とはいえ、首の負傷を再発させれば、相撲どころか、今後の人生にも関わる。恐怖との戦いは計り知れなかっただろう。周囲は大関から落ちても完治を優先させるべきで休場を勧める声も多かった。

 ただ本人は「毎日準備するだけ」、「白星、黒星で判断しない」、「負けたのは自分が弱いだけ」と言い訳一つせず戦いに臨んだ。勝負ごとに弱みは一切、見せなかった。

 メンタルは埼玉栄高時代から強かったのか-。同校の恩師、山田道紀監督に聞くと、こう返ってきた。

 「けがして治してけがして治して、きついと思うよ。精神的に強いと言われるけど、強い子なんていないですよ。強いんだと見せ付けないといけない地位。そういう地位だから。(相撲が)強い人はみんな神経質ですよ。貴景勝もそう。精神的に強い子なんていないですよ」。

 怖くないわけがない。名古屋場所では首に衝撃が走って起き上がれなかった。秋場所、負傷した際の相手、逸ノ城(湊)戦では、頭から当たらなかった。恐れと戦い、必死に封じ込め、オレは強いと言い聞かせ、大関の看板を必死に守った。

 同監督は場所中も教え子と連絡を取っていた。「私がせめて『きついよなー』といつも声をかける。誰か分かってやっていることで少しでも楽になれば」。その言葉は救いになったことだろう。

 20年初場所限りで引退した同校の10学年先輩、武隈親方(元大関豪栄道)も「やせ我慢」の男だった。引退会見では「言い訳は何一つない。やせ我慢というのがずっと心の中にあって。つらい時、苦しい時、人に見せないように努めた」と、男の美学を語った。

 優勝は1度、かど番は9度。成績は傑出したものではないが、歴代10位の大関在位33場所。けがにも泣き言一つ言わず、地位を守る姿は武士道だった。

 大関とは横綱を目指す地位。9勝、8勝にとどまり、優勝争いに絡めない“弱い大関”に残念な気持ちにもなる。だが今場所、貴景勝が歯を食いしばって挙げた8勝に心を打たれた。(デイリースポーツ・荒木司)

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