つい昨日のことのように思い出す。「有がオールスターに出るのか。それは楽しみだな」。米パドレスのダルビッシュが球宴を辞退する前、恩師は海の向こうで開かれる夢の祭典を心待ちにしていた。「それ日本でもテレビで見られる？」－。

　宮城・東北高校の監督時代にダルビッシュ有らを育て、２００３年夏の甲子園で準優勝を飾った若生正広氏が２７日午前６時１８分、肝細胞がんのため宮城県仙台市内の病院で亡くなった。７０歳だった。

　スマートフォンの電話履歴をさかのぼると、７月９日に「若生正広」という名前が刻まれていた。九州国際大付属高校の監督時代の教え子で、ソフトバンクからトレードで阪神に新加入した二保が、７日のヤクルト戦（神宮）で移籍後初登板初先発。自宅のテレビで観戦していた若生氏に投球の感想を聞いた。

　「初回はちょっと変化球が高めに浮いていたけど、その後は旭（二保）らしく投げられていたね。良かった」

　７日の登板前にも電話で教え子との高校時代の思い出を聞いていた。「ピッチャーらしいピッチャーというか、旭には気持ちの強さがあった。いい根性をしていたね。彼にとって移籍は大きいと思うよ。またチャンスをもらえたわけだからね」。穏やかな口調だった。電話は２時間以上も続いて、右腕に対する愛情が伝わってきた。

　教え子の一人、ヤクルト・雄平についての思いも語ってくれた。「あいつはめちゃくちゃ食べたね。それで、めちゃくちゃ走らせた。見たらびっくりすると思うよ」。電話の向こう側で笑っていた。話は止まらなかった。

　突然訃報を知り、まさか…と今でも信じられない。「僕の練習はあまり野球をやらないんですよ。しっかりとトレーニングをやって体を作って、高校生にはそれが一番大事。あと、投手を見る時は体の遠心力を使わずに、自分の腕の力で投げられいるかを見ますね。有を初めて見た時、そうやって投げていたから」。まだ一言一言が耳に残っている。ご冥福をお祈り致します。

（デイリースポーツ・中野雄太）