【野球】センバツ落選…智弁和歌山の再スタート 中谷監督「彼らは前しか向いていない」

 1月29日、朝のことだった。智弁和歌山・中谷仁監督(41)は、25人の部員を前に静かに問い掛けた。

 「期待しているヤツ、手挙げてみて」

 右手を伸ばしたのは、わずか3人。阪神、楽天、巨人でも活躍し、2018年から同高の監督に就任した指揮官は「実際の確率的にも、そんなものかなとは思っていました」と淡々と振り返った。

 同日の午後から、第93回選抜高校野球大会の出場32校を決める選考委員会がオンラインで開催され、出場校が決まった。選考で最も長い時間を要したのは近畿最後の6校目。ともに近畿大会ベスト8の天理と智弁和歌山で時間を費やしたという。実力が拮抗(きっこう)する中で、同大会に優勝した智弁学園に県大会で勝利していた天理に対し、智弁和歌山はベスト4入りした市立和歌山に3度負けていることが、大きな選考理由になったという。

 「想定していたことなのでね。昨年の秋は市立和歌山の小園くん(健太=3年)にやられました。同県にこんなタフな投手がいる。覚悟、理解して努力を続けていきたいと思います。でも、高校生の切り替えの早さは、本当にすごいですよ。まだ、僕らの方が秋の負けを引きずっているような感じです。彼らは前しか向いていない」

 和歌山3位で出場した昨秋の近畿大会では、準々決勝で市和歌山に0-2で敗戦。この時点で気持ちを夏に向けた。ただ、コロナ禍における補欠校1校目。指揮官として経験のない状況に、少なからず戸惑いもある。

 今年は依然として猛威を振るうコロナ禍での開催準備。当然、今後の感染状況次第では辞退校が出ないとはいえない。「ウチとしては(対外試合解禁日の)3月から練習試合を組んでいるので、流れの中で練習試合がセンバツ大会に変わってもウエルカムですよ」。教え子たちに聖地を踏ませてやりたいと、最善の準備を続ける一方、教育者としての願いを強く言葉に込めた。

 「逆に言うと、僕らがどうこういうよりも、センバツ大会が無事に行われるのが一番の望み。やっぱり昨年、交流大会に出させてもらって思いましたけど、チア、応援団、ブラスバント、全校応援、お客さんがあっての甲子園だと思うのでね。無観客での甲子園ではないことを祈りたい」

 出場資格があった昨年のセンバツ大会は中止。代替となった交流試合で、原則無観客の甲子園を体感した。だからこそ“聖地”が満員に埋め尽くされる景色の帰りを願う。「特にウチは、全校応援で力を発揮する選手が多いですから。健全に大会が行われることを祈っています」。補欠出場に向けた準備を怠ることはなく、備える春ではあるが、目を向けるのは挑む夏である。

 「市立和歌山さんには、甲子園で優勝してもらいたい。夏は絶対に総力を駆使して負けない。われわれは甲子園出場が目標ではないので。小園くんを倒して日本一になる。今日を区切りにして、また全力でトライしていきたいと思います」

 昨年12月には、米大リーグのマリナーズなどで活躍したイチロー氏(47)=現マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター=が臨時コーチを務め、3日間の技術指導を受けるなど話題を集めた。センバツ出場はあと一歩のところで涙を飲んだが、半年後の夏本番に向けて立ち止まる暇はない。

 「僕も選手も、イチローさんには、いろんなものに刺激を受けた。このグラウンドに置いてもらったものは大きいと言えるように、夏の結果に結び付けたいと思います」

 センバツ落選が決まったグラウンドには、いつものように熱気あふれる選手の声と、延々と打撃マシンを打ち返す打球音が響いた。選ばれた者、選ばれなかった者。それぞれの春に備え、夏に向かう。世界的スーパースターとの約束を果たす夏。聖地に「Jock Rock」を響かせる8月を信じ、智弁和歌山は再スタートを切っている。(デイリースポーツ・田中政行)

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