【野球】星稜・奥川「令和の怪物」に向けた試練と伸びしろ
下を向いている時間はない。「試練」と言える状況に置かれても、星稜・奥川恭伸投手(3年)は、冷静に前を向く。指揮官不在での練習や、すでに開幕している春季石川県大会を、チームとしても個人としても、成長の日々と捉えている。
「自分たちで考えるいい期間というか、今まではそういうことが全くなくて。自主性を大事にというのはあっても、(選手だけで)中身のあるミーティングとかはできてなくて。今回、いろいろとあって、初めてそういういい機会になったんじゃないかなと」
優勝候補として挑んだセンバツでは、初戦の履正社戦で3安打17三振の完封勝利を挙げたが、2回戦の習志野戦で波乱が起きる。まさかの敗戦を喫しただけでなく、林和成監督がサイン盗みを疑い直接抗議に出向いた。さらにその後、学校側に無断で週刊誌の取材を受けたことも含めて懲戒処分を受け、春季北信越大会終了の6月4日まで指導禁止となった。代わって、山下智将部長が指揮を執っているのが現状だ。
夏のリベンジを狙う上で思わぬチーム状況となっているが、現実を受けとめ、次の進歩を考えた思いが先の言葉となる。今だからこそ身に付けるべきことは、自分たちで問題を解決する対応力だ。
「自分たちで考えてできないのがこのチームの弱さだと思いますし、結局いつも同じ負けをしてというところでは自分たちの考える力や対応する力がなかったりと言えるので、夏はそういう負けをしないように」
いざ試合が始まれば、ベンチからサインが出るとは言え、一瞬の判断や状況に応じたプレーなどは個々の判断力や責任を問われる。そこを磨かなければ、チームとしてのレベルアップも望めない。もちろん奥川個人にとってもだ。さらに上へ。その思いは強い。
センバツ後に行われたU18侍ジャパン高校代表候補合宿に参加。そこで大船渡・佐々木朗希投手(3年)の163キロ直球を目の当たりにするなど、世代トップクラスの選手らと練習に取り組む中で、雰囲気に圧倒されたという。
「周りに圧倒されてしまって。自分ももっと実力を付けて、周りの目も気にならないぐらいに実力を付けないと。(高校BIG4として)自分が並ぶのも恥ずかしいなと」
奥川は今秋のドラフト1位候補と位置付けられている世代のスターだが、自身にその思いはない。周囲からの期待への自覚はあっても謙虚すぎる姿勢は変わらない。もっと自信を持っていいのでは?と返しても「いや、BIG4からも外してほしいですよ」と笑う。ただそういった思いも、伸びしろとなる。
困難な状況をいかに乗り越え、自分を磨けるか。「夏が終わった時にこの期間がプラスになれたと言えるように、監督さんが帰ってくるまで踏ん張ってやっていきたいと思います」。濃密で重要な毎日を積み重ね、さらなるスケールアップを図り、夏の甲子園を目指す。その先には「令和の怪物」の称号が待っている。(デイリースポーツ・道辻 歩)