【スポーツ】ジュニアの紀平に見た「失敗と向き合う力」

 フィギュアスケートの世界でジュニアが急激に台頭してくることは珍しくない。特に女子の場合、ジャンプの技術が10代半ばで一気に伸びることが多いため、1年で上位の顔ぶれが変わるということもある。それでも、今季のグランプリ(GP)ファイナル(カナダ)で、GPデビューシーズンにも関わらず優勝した紀平梨花(16)=関大KFSC=には、関係者からも驚きの声が上がっている。

 幼少期の教育法や、バレエやダンスなどのレッスンを受けていたことなどさまざまな背景はある。しかし、ジャンプのセンスは「小学6年の時にはトリプルアクセルが跳べると思った」と浜田美栄コーチが証言するとおり、天賦の才だろう。

 一方で、昨季までの紀平はどちらかというと大舞台に弱いイメージだった。昨季のジュニアGPシリーズ2戦は2位と3位、ジュニアGPファイナルは4位。その結果は、資質の高さゆえに本人も周囲も歯がゆかったことだろう。数ミリの踏みきりの違いが成否を分けるジャンプは、技術と同様にいかに心を保てるかが重要だ。紀平は16-17年シーズンに国際大会で大技を初めて跳んでから、トリプルアクセルという伝家の宝刀を携えながら、心の戦いを続けていた。

 「去年はトリプルアクセルのことしか考えられなかった。頭で考えて(バタバタと)忙しかった。でも、初めから考えると緊張してしまうことがわかったので、最後のバッククロスくらいから考えて、間に合わないくらいのタイミングで急に集中するとうまくいく。今は直前でダーンと考えることにしています」

 これはちょうど一年前に全兵庫大会で話していたコメントだ。すでに注目を集め始めていた中学生は、多くの報道陣に囲まれながら、自分の言葉で重圧の操り方を説明した。

 今季序盤のブロック大会でも「前回は緊張しすぎたので、今回は緊張しないようにとリラックスして臨んだらダメだった。やはりちょっと緊張しているくらいがいいみたい」と話していた。自分を俯瞰(ふかん)でながめ、演技直後に失敗の原因を言語化することは、10代の選手にとって簡単ではない。

 多くの観客の前で華やかな衣装に身を包みながら、ひとつ間違えば転倒という残酷さを持つのがフィギュアスケートだ。しかし、落ち込む時間を、紀平は考える時間に充ててきた。失敗に真正面から向き合い言葉にすることでその恐怖心を克服してきた。

 そう言えば、母の実香さんが以前話していたことがあった。「小さい頃から痛みに強い子だった。転倒しても痛くない、うまくこけているから大丈夫だと言っていた」。「新星」「急成長」と呼ばれる躍進は、一朝一夕で生まれたものではない。心を奮い立たせて何度も立ち上がってきた、少女の努力の結晶だろう。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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