【野球】西勇輝、阪神移籍の決め手 移り変わるFA選手の思い

 最大の決め手になったのは-。

 テレビカメラ8台、50人を超える報道陣が詰め掛ける中、会見に臨んだ西勇輝投手(28)は、ハッキリとした口調で理由を明かした。オリックスから国内FA権を行使し、3度目の交渉を行った7日、大阪市内のホテルで阪神移籍を表明した。

 「矢野(燿大)監督(50)からは『ファンを喜ばせたい』という言葉がありました。自分自身、本当に、球場に来てくれる方とともに、一緒に頑張りたいと思っています。そういう言葉が聞けて、本当によかったです」

 阪神球団にとっては、「熱意の勝利」とも言える。西が11月7日、国内FA権の行使を表明して以降、複数球団が獲得に乗り出した。当然、在籍球団のオリックスは残留交渉を続け、ソフトバンク、DeNAなども調査に乗り出していた。

 最終的にはソフトバンクと阪神が一騎打ちの様相を呈したが、なにより驚きは契約内容で“下回った”阪神が勝利したことだろう。巨大な資金力を誇るソフトバンクは、当初から4年総額15億円を基本線に交渉を行ったとみられる。さらに前西武の浅村栄斗内野手(28)が楽天行きを決断すると、西獲得に向けて提示金額を再考。4年総額20億円前後まで上積みしたという。

 阪神は4年総額10億円前後の提示。その差は10億円になる。当然、両球団とも金額は「推定」だが、阪神とソフトバンクの条件面には、大きな開きがあったことは間違いない。谷本修球団本部長(54)も、当初から「ウチよりさらに西の球団と、同じ土俵で戦っても勝てるわけがないですから」と話していた。

 ここに、時代とともに移り変わるFA選手の「思い」が見え隠れする。前述のように、楽天移籍を決めた浅村も、4年総額20億円前後とされる契約より、ソフトバンクは4年総額25億円以上の金額を提示したとみられる。

 阪神→メジャー→独立リーグ→阪神と渡り歩いた阪神・藤川球児投手(38)は、前広島の丸佳浩外野手(29)が巨人移籍を決断した際に、祝福した上でこう話していた。

 「当然ですよ、選手としては。僕はそうあるべきだと思う。一番、評価の高いところに行くべき。プロである以上は、ですね」

 この「評価」に対する価値観に、少しずつ変化が生まれているようだ。NPBでは1993年オフにFA制度が導入されて以降、国内だけで100人近い選手が移籍を決めた。西は90人目となる。第1号となった松永浩美(58)は、阪神の年俸9600万円から、ダイエー(現ソフトバンク)に1億4400万円の大幅昇給で移籍。大半が「評価=金額」で、より条件の高い球団に移籍することが通例だった。

 だが、巨人に移籍した丸も金額以上に、契約年数を重視していたと聞く。いずれも億を超えるだけに、決して「安い」金額ではない。ただ、目の前のお金以上に働く環境や、契約年数などの安定、獲得に対する熱意などが、決め手となるケースが目立つようになってきた。少し立場は違うが2014年オフ、20億円超のメジャーのオファーを蹴って、広島に復帰したのは黒田博樹氏(43)。25年ぶりリーグ優勝の立役者となり、「男気」として称賛された右腕が、このはしりだろうか。

 西は交渉期間中、「僕をどれだけ必要としているか、その言葉をもらいたい」と、こだわりの部分を明かしていた。このように「評価=金額」だった時代から、少しずつ「評価=価値観」に変化。西が最も重視したのが熱意であり、丸は契約年数、浅村は働く環境だったのだろう。昭和、平成と、時代とともに移り行くFA市場。来季、移籍した選手がどんな活躍を見せるだろうか。違った視点で見るプロ野球も、また面白いのかもしれない。(デイリースポーツ・田中政行)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

オピニオンD最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス