【スポーツ】多田修平、苦悩の1年から飛躍なるか「試合があるたび正直、嫌な気持ちも」

 日常生活の中で、0・1秒を意識して生活することはまずない。まして0・01秒なんて、気にしたことすらないだろう。彼らはその“一瞬”を縮めるために努力を重ねる。それは本当に繊細な感覚なのだと、私は今季、彼を見ながら感じていた。

 陸上男子100メートルの多田修平(22)=関学大。9月に行われた日本学生対校選手権は、4年間ともに戦った「KG」のユニホームを着て走る最後のレースだった。向かい風1・4メートルの条件下、10秒36の3位。不本意な結果に終わった。当初出場を予定していた10月の国体は欠場。学生対校が、結果的に今季最終戦となった。

 「不安もあった」「いい形では終われなかったが、出せる力は出し切った」「優勝を目指していたので、悔しい気持ちはあるけど、これが今の力」。そのレース後、彼から出てきた言葉は直球で、驚くほどに潔かった。

 400メートルリレーで金メダルを獲得した8月のジャカルタ・アジア大会では、「ここまで調子は良くなかったけど、上がってきている」と自らを奮い立たせるかのように強気に話し続けていただけに、正直、大勢の報道陣の前ですんなり苦悩を認めたことが意外だった。その“ギャップ”に葛藤がにじんでも見えた。「開き直っていいか分からないけど、このことはいったん忘れて…忘れちゃダメだけど、忘れて、イチからしっかりトレーニングを積めたら」。自分なりに、ここまでの過程、そして結果を飲み込んだのだろう。

 彗星のごとく台頭したのが17年シーズン。持ち味であるスタート直後からの加速を生かしつつ、ピッチを抑えて後半もバテない走りを習得することが、この18年シーズンのテーマだった。しかし、なかなか手応えは得られず。逆に速いピッチから生まれる軽やな加速が失われていった。

 4連覇を果たした5月の関西インカレの頃には「なかなか足を回せない。いろいろ試してトライしたけど、始めからピッチで回して中盤に向けて流れを作った方が、レース展開的にも違和感なく、考えずに走れる」。これまで感じたことのないような周囲の期待の裏で、改良前の走りへと意識を戻していった。しかし、納得いく感覚はなかなか得られない。思い悩んだまま迎えた6月の日本選手権では5位に終わり、涙した。シーズン佳境に入っても「やっぱり自分自身しっくりくるレースがない」。狂ったとまではいかない。でもどこかずれた歯車は、結局最後までかみ合わないままだった。

 勢いそのまま駆け抜けた先シーズン、多田は「楽しむことを意識して取り組んできた」と話していた。しかし「去年は試合が楽しみだったけど、試合があるたびに正直、嫌な気持ちもあった」。どうしても、昨季と同じようにスタートラインに立つことはできなかった。「とりあえずシーズンをある程度終えてホッとしているというか…。早く冬季練習に入りたい」。

 見据えるのは2020年。多田は常にあえて大きな目標を掲げ、そこに向かって力をつけ、突き進んできた。「こういう苦しい時期、スランプの時期は、これからの自分に絶対生きてくると思う」。もがいたこの1年が、未来の多田に何を与えるのか。充実したオフを過ごし、またはじけるような笑顔が見られることを願いたい。(デイリースポーツ・國島紗希)

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