【スポーツ】48歳池山直が現役引退 次世代に受け継がれる最後の言葉
ボクシングのWBO女子世界アトム級タイトルマッチが7月29日に京都で行われ、48歳10カ月で7度目の防衛を目指した王者、池山直(48)=フュチュール=が東洋太平洋ライトフライ級王者の岩川美花(35)=高砂=に判定負け。自身が持つ国内最年長記録を更新することはできず、試合後に引退を表明した。
「負けたら最後。全力でいこうと思った」。長身で相手をさばくスタイルの岩川に対して無尽蔵のスタミナで愚直に向かっていく女王の姿は鬼気迫るものがあった。地鳴りのような声援がわき起こる女子の試合は、記者にとって初めての経験だった。
1-2の悔しい敗戦に「技は及ばなかったけど、気持ちで負けてない。そういう意味でスッキリしました」と池山。そして、取材の最後に報道陣にこう聞いた。「盛り上がってましたか?」。会場の興奮を伝えられると「よかったです」と肩の荷が下りたように笑った。
子供の頃から運動は得意でなかったが、体を動かすのは好きだった。岡山市役所に勤務しながら30歳で競技を初めた。2007年に日本ボクシングコミッション(JBC)が女子を認可し、30代後半で“プロデビュー”。公務員のためファイトマネーはもらわず、市役所とジムの往復に休日はほとんどなかった。戴冠後は、年齢制限で「負けたら引退」を背負い続けた防衛ロードだった。
「女子ボクシングにはいろんな偏見があるけど、一生懸命相手に向かっていくことに男女差はない。試合にかける思いは一緒だとわかってほしい」。その一念で続けた現役生活が終わる。ただ、女子が認可されて10年がすぎても、まだかなえられない夢がある。「いつか、地上波で女子の誰かの試合を見られたらいいですね」。静かにグローブをつるしたレジェンド。道を切り開いた女王の魂は、次世代に受け継がれる。(デイリースポーツ・船曳陽子)