７月１４日、熊本で行われた平成最後のオールスターゲームの裏で、もうひとつの“球宴”が開催されていた。時を同じくして、リーガロイヤルホテル大阪・光琳の間で開かれた日本プロ野球ＯＢクラブ（公益社団法人全国野球振興会）による「ファンとの集い　サンクスフェスティバル　２０１８」がそれ。関西での開催は１０年ぶり２度目とあり、在阪球団ＯＢを中心に総勢４４人がホスト役として参加。集まった５００人のファンとたっぷり３時間交流し、野球談義に花を咲かせた。

　開演の際には、それぞれの球団応援歌が流れる中、各ＯＢが入場して雰囲気を盛り上げた。元ロッテ監督で阪神でも投手コーチを務めた八木沢荘六理事長（７３）が「再び関西で開催できたことは意義深い」とあいさつ。その後に、元近鉄監督の岡本伊三美さん（８７）が「野球に恩返しがしたいだけ。喉が渇きました」と乾杯の音頭を取り、力強くプレーボールを宣言した。

　イベントのハイライトは岡本さんをはじめ、吉田義男さん（８４）、安藤統男さん（７９）、八木沢さん、藤田平さん（７０）、真弓明信さん（６４）、岡田彰布さん（６０）ら歴代監督経験者７人によるトークショー。特に阪神の元監督が一度に５人も登壇するのは壮観だった。

　締めて１３３３勝１３１９敗１０８分け。八木沢さんは「私を除いて、みなさん内野手ばかり。監督は内野手経験者がいい」と持ち上げたが、一同顔を見合わせて苦笑い。自虐ネタと自慢ネタが入り乱れ、ほとんどが自虐の方だった。

　真弓さんを悩ませたのは連続フルイニング出場が掛かっていた“鉄人”金本知憲外野手（５０＝現阪神監督）の起用だという。「できるだけ記録を伸ばしてもらおうと考えていましたが、右肩を痛め、１０メートルほどしか投げられない状態。本人から“もう無理です。外してください”と言われ、最初は“もう１日我慢しろ”と。次の試合前はメンバー表に金本の先発を外したものと、５番に入れたものを用意しました」と苦渋の選択だったことを打ち明けると「まあ、監督としてはそれぐらいしかしてません」と落とし、周囲の笑いを誘った。

　安藤さんは、ヤクルトのコーチ時代に先発予定の尾花孝夫さん（６０）を誤ってベンチ入りメンバーから漏らし、すったもんだの末に先発完投したエピソードを告白。「阪神戦で監督は村山さん。吉田さんと違って村山さんは厳しい人やから最初はアカンとなったけれど、村山さんに謝って何とか試合が始まった。そしたら尾花が年イチのピッチングして…。単に尾花のところに○をつけ忘れただけだけど、こんなの後にも先にも初めて。それからはメンバー交換をする前にしっかりチェックするようになった」と振り返った。

　今回のイベントは「関西も負けてられへん。どうせやるなら盛大に」という在阪ＯＢの声を受けてのもの。ここまで大規模な交流会は珍しく、参加費は大人１万２０００円（会員１万円）、小中学生６０００円にもかかわらず、全国から熱心な野球ファンが参加。女性客も目立った。

　東京から駆けつけたというファンの池田周司さんは、阪神ＯＢ亀山つとむさんが表紙を飾った「週刊ベースボール」を携え、サイン後に握手。「このために来ました。亀山さんに会えて良かった」と興奮気味だった。

　かつてプロ野球を担当していた私個人も懐かしい人々と再会できた。福間納さん（６６）、上田二朗さん（７４）らに近況を報告。高校時代に対戦したことのある同郷・岡山の八木裕さん（５３）は現在、母校・岡山東商のコーチもしており、「甲子園目指してがんばってます」と相変わらず爽やかだった。

　交流会ではトークショー以外に、長嶋茂雄巨人終身名誉監督のサイン色紙や往年のスター選手のサイン入りパネル写真などの抽選会も開かれた。閉会後には“延長戦”として西日本豪雨被災支援の募金も実施され、来場者から１６万８７６１円、ＯＢクラブから１００万円が寄せられ、心温まる宴は終演した。

　同クラブは「野球に恩返し」を合言葉に９８年４月に設立され、野球を通しての地域貢献、野球人口の底辺拡大、普及振興を目指してきた。今年５月には全国４７都道府県、４８会場（東京都のみ２会場）での少年少女への野球教室を開催。これまで２４回開催され、参加した子どもは２５万人を超え、手伝ったプロ野球ＯＢは３８０人に上るという。

　帰りのバスは阪急の４番打者・長池徳士さん（７４）と一緒になった。「懐かしいメンバーにも会えたし、ファンにも楽しんでもらえた」と、こちらの手が痛いほどガッチリ握手して別れた。「ファンあってのプロ野球」。今後も継続的に活動してほしい。（デイリースポーツ特約記者・山本智行）