【スポーツ】水谷隼、張本に刺激受け“弱点”克服着手 「今の卓球にチキータは必要」

 14歳に喫した2連敗が、日本卓球界のエースに進化を迫っている。1月の全日本選手権男子シングルス決勝で張本智和(エリートアカデミー)に完敗したリオデジャネイロ五輪銅メダリストの水谷隼(28)=木下グループ=は、3月3日に行われた「ジャパン・トップ12」の決勝で見事にリベンジ。そこには、自身が苦手としてきた攻撃的なバックハンドレシーブ「チキータ」に積極的に着手し、またコースへの打球にダイブして返球する必死な姿があった。

 「『自分もまだまだやれるぞ』というところを張本にも周りのみんなにも見せられて良かった」。自信を取り戻すとともに、試合後に聞かれたのはさわやかな言葉だった。「試合をしていて非常に楽しかった。お互い1ゲームごとに新しい技、新しい戦術をどんどん出して『次は何を出してくるんだろう』というワクワクがあった」。ともすれば、自身を脅かすような新鋭の台頭を喜んでいるようだった。

 「王者のまま引退したくない」。昨年1月の全日本選手権で9度目の優勝を果たした水谷は、コート上インタビューでそう宣言した。若手に奮起を促す目的の発言だったが、そのわずか1年後に、14歳に王座を奪われる。待ち望んでいた“後継者”に対して、水谷は「年齢を考えれば(張本は)過去の日本選手の中で1番、圧倒的に強い。自分自身も彼が出てきたことによってすごく刺激を受けている」と率直な心境を明かした。

 初対戦となった昨年の世界選手権、そして全日本と2連敗したショックは、水谷にプレースタイルの変化を迫った。前陣から高速のフォア、バック両ハンドを放つ張本の卓球に対し、台から下がったラリー戦を得意とする水谷は対応しきれなかった。しかし、雪辱を果たした今月の試合では、自身も台から下がらず積極的にチキータやカウンターを繰り出す姿があった。

 もはや世界の強豪の一角となった張本対策は、今後世界の潮流に乗り遅れないためにも急務だった。「張本はチキータだったり、バックドライブのカウンターだったり、最先端のすごい技術をたくさん持っている」と認めた上で、自身も、ミスしやすく扱いが難しいチキータを実戦で繰り出していく決意をした。

 「今までもずっと自分はチキータが足りないとずっと思っていた。なんだかんだで足りない分を他の部分でカバーできていたが、東京五輪までまだ2年以上あるので、チキータをマスターすれば相手にとって自分がさらに脅威になるんじゃないかと思った。今の卓球にチキータは必要」

 それは最新の技術を体得するというだけでなく、相手にインプットされた“水谷の戦術”のイメージを更新することでもある。「たしかに(張本に)2回敗れていたが、自分もずっと世界のトップでやってきたしちょっとの差だと思う。技術は彼の方が上だが、卓球は技術だけじゃなく色んな部分を使う。彼に勝つためには戦術だったりメンタルだったり。そういう意味で(敗れた)前の試合はいい勉強になった」

 海外トップにも、世界ランク2位のファン・ジェンドン(中国)といったチキータの名手がいるだけに、張本対策を練ることは東京五輪に向けた自身の進化にもつながる。

 一方、今季から世界ランクシステムが新しくなり、昨季ワールドツアー出場が少なかった水谷は現在日本勢4番手の14位まで下がっている。しかし、今の立ち位置についてエースに焦りはないようだ。

 「まだ五輪代表の選考方法も出てない(18年3月5日時点)し、日本で一番高い所にいなきゃいけないという気持ちもそこまではない。昨年ワールドツアーにほとんど出られなくてランクも下がってしまったが、今年はたくさんツアーに出る予定なので、自分が強ければ必然的にもっとランクが上がるし、また日本のトップに立てるようになりたい」

 その後、日本協会は、東京五輪のシングルス代表は世界ランク上位2名を選出する方針を示したが、水谷にとって今季は、リオ五輪後の世界戦線でどこまで戦えるかという試金石のシーズンになりそうだ。

 余談になるが、全日本決勝で水谷に勝利した張本が、喜びのあまり相手と握手する前にコーチである父・宇さんと抱擁したことを、日本協会が関係者を通じて注意したと発表した。ただ、これはあくまであいさつの順番に対する確認で、まるで張本が“水谷との握手を拒否した”かのような誤解もあるようだが、それは誤りだ。実際に抱擁の後は頭を下げながら水谷としっかりと握手をしている。このことは張本や卓球関係者の名誉のためにも、あらためて強調しておきたい。(デイリースポーツ・藤川資野)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

オピニオンD最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス