【野球】166キロ男は虚言で終わるか

 その背中に哀愁が漂った。大雨の中、傘も差さずにパーカのフードをかぶり、ジーンズがびしょびしょになっても構わず地下鉄の駅へと歩いていた。

 オリックスのエリック・コーディエ投手が7日に出場選手登録を抹消された。青濤館の室内練習場で行われた練習に参加後、1軍と別れ一人で家路に就いた。通訳も付かずたった一人だった。

 「いい雨の日だね」

 ジョークもさえない。ため息の原因は2軍落ちなのか、9日に奥さんが帰国するためなのか-。

 4試合に登板し、0勝1敗2セーブで防御率は13・50。開幕から3勝7敗と波に乗れないチームの大きな要因となった。

 特に6日の楽天戦(京セラドーム大阪)では1点差に迫った九回に登板したが、ウィーラーに一発を浴びるなど試合をぶち壊した。本拠地初登板。登板の際にはビジョンで代名詞である160キロをイメージしたカウントアップの映像で盛り上げただけに、むなしさは倍加した。一塁スタンドからは「しっかりせぇ!金返せ!」のヤジのあと、あろうことか、「オコエ!オコエ!オコエを出せ」と相手チームのルーキー登場を願うオコエコールまで起こる始末だった。

 1月の来日以来、その言動で注目を集めた。

 「最速?103マイル(約166キロ)を記録したことはあるよ。イチローにはワンハンドレッド(160キロの意味)と呼ばれていたんだ」

 チームが新守護神として獲得した右腕。キャンプではクイックモーションができない弱点も指摘された。それでも「走れるものなら走ってみろ。けん制は得意だ。駆け引きもできる。だいたい走者を出さなければいいんだろう」と不敵な笑みを見せた。

 3月25日、西武との開幕戦(西武プリンスドーム)でぶざまなサヨナラ負けを喫した。27日の同カードで初セーブを記録したが3安打1四球と大乱調。ヒヤヒヤリリーフにチーム全員が手に汗を握り、疲れ切った。が、その試合後にも「みなさんに約束できるのはシーズンを通してこんな状態じゃないということだ」と堂々と宣言。福良監督にとっても監督初勝利だったが、ウイニングボールをしっかりと握りしめ、「このボールはいただく。監督には代わりに胃薬でも贈っておくよ」とジョークで締めてみせた。

 実際に30日の日本ハム戦(札幌ドーム)では3者凡退で締め、言葉通りの活躍を期待したが…。

 結果が出た今となってはそのどれもがむなしく響く。

 福良監督は降格を告げる際に「ストライクゾーンで勝負できるように。クイックの習得。何でもいいからストライクが取れる変化球を身につけること」と1軍再昇格に向けての条件3点を本人に伝えた。

 コーディエはその言葉をかみしめるように、大きな背中を丸めるように地下鉄の駅へと歩いて行った。

 打たれたらそると話していたヒゲは今も健在。すべてが虚言で終わるのか、それともガラリと変身して再び1軍のマウンドでヒゲ魔神として君臨できるのか。

 大口をたたくが、どこか憎めない愛きょうもあった。もう一度、あの自信満々の表情で勝利のハイタッチに加わる姿を見たい。(デイリースポーツ・達野淳司)

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