阪神・島本の飛躍を予言したスカウト

 あまりにも線が細すぎて、これはプロでやっていけないのでは、と思った。4年前の入団時のこと。今年、対外試合9戦連続無失点(14日現在)の快投を続ける阪神・島本浩也のことだ。

 10年の育成ドラフト2位で入団した彼の背番号は126の3ケタ。背中が小さすぎて、ユニホームに納まりきらない。将来化けるのか、大いに疑問だった。2月、安芸2軍キャンプでの初ブルペン。まだ前の投手が投球練習をしているというのに、あろうことか島本はマウンドを自分用にならし始め、当時の遠山コーチに叱られるほど。どこか視線が定まらずフワフワとして、地に足がついていない印象だった。

 だが、この快投劇を見て、4年前に聞いた言葉がふと、脳裏によみがえってきた。

 あれは仮契約時のことだった。一通り取材を終え、当時新米の阪神担当記者だった筆者は失礼ながら、恐る恐る担当スカウトに直撃取材を試みたのだ。本当に通用するんですか、と。

 「3年…では無理かもしれんね。でも4、5年後に見てみ。中継ぎのワンポイントならかなり面白い素材。こっちもそれなりの確信があって指名してるわけやから」

 その根拠について、懇切丁寧にこんな解説があった。

 「時代は変わった。肩、肘は消耗品や。あいつはこの1年、試合で投げてない(出身の福知山成美は当時、高野連から対外試合禁止処分が出されていた)。すごくキレイな状態なんや。あのフォームなら、そこまで故障の心配もない。伸び盛りの高校生で、1年間投げてないというのはものすごい遅れ。練習と試合ではやっぱり全然違う。それでいて、あれだけのボールが放れる。ああ見えて、気持ちも強い。必ず化けてくれると信じてるよ」 当時、筆者は恥ずかしながら、この言葉を額面通り受け取ることはなかった。だが、島本の気持ちの強さを垣間見たのは3月、2軍本隊が教育リーグの福岡遠征を終え帰阪したときのこと。同期入団で同い年の育成選手、阪口哲也と穴田真規はこの遠征メンバーに選ばれたが、島本は漏れて2軍本拠地の鳴尾浜球場に残っていた。そのことを本人にぶつけると、おっとりした表情を引き締め語った。 「普段から仲がいいですし、野手と投手の違いもあるんで。でも、僕だけ行けなかったのは事実。悔しさは忘れないようにしようと思います。3年経ったら絶対に支配下になります」

 「なりたいです」「投げたいです」ではなく、「なります」と断定的に話した眼光の鋭さ。それまで見たことのない目で話す姿に、前出のスカウトの言葉を信じてみる気にさせられた。昨年11月、島本は見事に支配下登録に。現在、オープン戦で好投を続けるその目は、あの初ブルペンのときのものではなく、鳴尾浜で活躍を固く誓ったときと同じものだ。

 まだシーズンは始まってもいない。1軍登板実績がゼロというのも紛れもない事実だ。ただ、これだけのパフォーマンスを見せられて今季の飛躍を期待しない人間は皆無に等しいだろう。

 育成選手制度が始まって以来、阪神ではその後支配下登録され年間を通して1軍で活躍した選手はいない。昨季苦しんだ左の中継ぎ投手不足。スカウトの言葉が現実のものになったとき、阪神の10年ぶりの優勝がグッと近づくに違いない。

(デイリースポーツ・北野将市)

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