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公務員ランナーが笑顔で走った理由

ハーフマラソンで走った東京湾アクアラインを指差しガッツポーズを決める川内優輝(撮影・開出 牧)
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 最強市民ランナーの新たなる挑戦が始まった。10月3日に行われた仁川アジア大会で銅メダルに終わり、日本代表戦線から一時撤退を表明した公務員ランナーの川内優輝(27)=埼玉県庁=が、19日の「ちばアクアラインマラソン」に出場。2位以下を5分以上引き離す圧勝で優勝を飾った。

 これまで悲壮感すら漂わせて走っていた男に、大きな変化があった。楽しげな笑みとともにハーフを駆け抜けた川内は「アクアラインの景色が素晴らしくて、最高でした。本当に楽しく、ニヤニヤしながら走った。久々にすがすがしい」と、充実の汗を拭った。

 すべてを吹っ切ったような笑顔の理由は、2つある。1つは何より“日の丸”の重圧から解き放たれたこと。「もう日本代表は関係ないですから。だいぶすっきりして、睡眠もしっかり取れるようになった」。アジア大会後には職場に『アホ公務員。2度と走るな』と心ない手紙も届いたという。これまでも同様の内容の手紙や電話を受け、その度に「そうだな。日本代表だもんな」と、真摯に受け止めていたが、今は「代表も外れたし、そんなこと言われる筋合いもない。他の代表に言ってくれ」と、受け流す余裕ができた。

 もう1つの理由は衝撃的だった。日本代表の重圧に押しつぶされ、「死ぬんじゃないか」と追い詰められていたアジア大会直前に行った奥多摩・秩父での練習で、山道に迷い、遭難の危機に陥った。「コースの設定を長くし過ぎて、地図で点線のところにいってしまった。まさかあんなやばい道だったなんて…」。

 道なき道をさまよううちに、日は暮れ、水も食料もなくなっていった。「木の幹を掴みながら、斜面を登った。崖に落ちそうになったり、熊に襲われる恐怖もあった」。7~8時間後、最後は木に打ち付けられていたピンクのリボンを頼りに、何とか林道へと出た。「本当に死ぬかと思った。そこで悟ったんです。こうやって、まともに整備された道を走れるのはなんて幸せなんだと。仏教とかでも悟りを開くとかいうのは、こういう極限状態の中でひらめくんだなと思った。心が軽くなりました」。今、何よりも走れる喜びを実感している。

 15年北京世界選手権出場は断念した。今後は一市民ランナーとして、日本、世界中のマラソンを転戦しながら、2時間6~7分で走る力を養う。「日本中に出没します。もっと実力をつけて、ああいう(日本代表の)舞台に戻れたら」と、16年リオデジャネイロ五輪を見据えた。

 ただ、川内らしく今後も日本のマラソン界に“刺激”を与えていくつもりだ。現状では名前が残るナショナルチームは、除外されない限り籍を残すつもりだが、「外れたら外れたで、僕がナショナルチームの選手が出るレースに出て、勝負して、勝ち続けるのもいいかもしれないですね」と不敵に笑い、“ヒール”役への転身も示唆した。その走りで日本のマラソン界に一石を投じ続けてきた男。まだまだその動向から目が離せない。

(デイリースポーツ・大上謙吾)

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