たかじんさん、本当は東京が好きだった
2014年1月24日
96年の「‐ばぁ~」収録後も3人の交流は続いた。今度は、たかじんさんが上京し、たけしが店をセッティングして“客人”をもてなしたという。「たかじんがコンサートを東京でやった時、『会おか?』と連絡が来る。たけしは時間がなくてすぐ行けないから、俺が先にコンサートが終わるころに会場行ってね。日曜で行きたい店が開いてない時も、『どこでもええんやん』言うてメシ食った。六本木やね。たけしは普通、接待なんてせんけど、『いいよ』って、たかじんのために店をセッティングしてた」
たかじんさんと言えば“東京嫌い”とともに“酒”が代名詞だった。その背景を、洋七なりに分析する。「本質はまじめで繊細な人やから酒を飲んだ。彼はもともと歌手。芸人やったら、後輩が『師匠すごいですね』となるわけやけど、たかじんは一匹オオカミやから、『すごいね』とか周りもよう言わん。それを飲み屋で求めたんやろね。『飲みっぷりがすごいね』とか言われたくて。ほんまはそういうことやなくて、後輩から『すごいですね』と言われたかったんやろけど、世界がまた違うしね。歌手やから。寂しそうやった」
大阪の酒で寂しさをまぎらし、東京の酒で刺激を受ける‐。洋七はその両面を見てきた。「大阪ではワ~ッと飲んで目立っても、東京では目立たんもん。酒場に行っても、芸能界だけでなく、財界の人とか、東京には日本一の人がいっぱいおるわけやん。2、3回は、たけし以外とで飲みに行ったけど、たかじん、『東京すごいなぁ』って言うてたもん。たまに東京の空気を吸うことで刺激を受けとったんやろね。大阪で弱音を吐かれへん分、つらかったと思うよ。大阪では『東京がなんやねん、おまえ!』とか言うてたけど、それもリップサービスやったと俺は思う。大阪の居心地はよかったと思うけどね」
東京はお忍びで満喫する、つかの間の“解放区”だったのかもしれない。数年前、東京で流れていたテレビ番組で、大阪から東京進出した人気お笑い芸人のいるスタジオに、たかじんさんが“乱入”した場面を偶然見たことがある。ビビリながら「東京で何してはりますのん?」という芸人の問いに、「東京には刺激あるから。たまに来て刺激受けてる」という趣旨の発言をしていた。洋七の証言を聞きながら、その言葉を思い出した。
“東京嫌い”を公言し、そのパブリック・イメージを最後まで裏切ることなく演じきった、たかじんさんだが、実は東京が“好き”だったのではないか。東京に対する、あこがれと反発心がコインの裏表となった複雑な感情を自身のモチベーションとしていたのかもしれない。くしくも、たかじんさん最大のヒット曲は「東京」、最期の時を迎えた地も「東京」だった。=一部敬称略
(デイリースポーツ・北村泰介)