プライベート切り売りの裏にあるもの

 年末年始、テレビを見ていてあきれたことがある。芸能人が自分のプライベートを切り売りする番組の、いかに多いことか。

 失敗談など身近なあれこれのみならず交際から結婚、妊娠(時間的にこの二つは前後していることが多い)、離婚まで、デパートの陳列棚を見るような満艦飾。イギリスの手厚い福祉行政を表す「揺りかごから墓場まで」というフレーズを思い出してしまう。

 なぜこんな流行が?と考えたとき、今世紀に入って加速した個人情報保護と無関係ではなかろうと思い至った。

 「個人情報の保護に関する法律」が全面施行されたのは2005年4月1日。その時点では既に実社会の方が先行していた。

 住所、氏名、年齢等の個人情報が保護されるべきものとして扱われ、中でも病歴や収入、戸籍記載事実等はセンシティブ情報として高いランクに位置づけられた。

 その位置づけが高ければ高いほど、値打ちがある。有名人に関する情報はトップランクにあるといっていいだろう。だから告白番組が成立する。

 10年以上前だが、ある探偵事務所は有名人の自宅電話番号を調べ出すのを1件10万円で請け負うという話を聞いたことがある。

 私が現場で記者を務めていた時代は、今から思えばなんと個人情報が軽く扱われていたことか。

 プロ野球の巨人担当だった30数年前、球団は監督・コーチ・選手の住所、電話番号を記載した名簿を担当記者に配布した。家族構成からその名前、年齢まで載っていた。

 今のように名簿に闇値がつく時代なら、あの巨人軍の名簿にはどれほどの高値が付いたことだろう。

 ただ一人、電話番号が載っていない人がいた。長嶋監督だ。スポーツ人のみならず芸能人も政治家も含めて日本一の有名人であった長嶋監督の電話番号は、いくら隠しても漏れて、知らない人から電話がかかってくる。そこで長嶋さんは対抗上、しょっちゅう番号を変えた。名簿に記載できないのも無理はない。

 私たち担当記者も知る者は一部しかおらず、その番号を知っていることが担当としてのステータスの一つだった。

 同じくらいの有名人がもう一人、チームにいた。王選手だ。本塁打記録を次々と塗り替える当時の王さんは、日本中の老若男女のアイドルだった。

 しかし、王さんは電話番号を変えなかった。その電話にはおそらく、ファンや時にはアンチファンからの電話が散々かかってきたことだろう。それでも番号を変えず、報道陣に公開し続けたのも王さんの律儀な性格を物語っていた。

 両雄は毎日目の前で見ていても、素晴らしい人たちだった。しかしその性格が違うように、電話番号をはじめとした個人情報についての考え方は違っていた。何を、どこまで、どのようにして守るか、2人はそれぞれ悩んだ末に自分なりの答えを見つけていたようだ。

 今は世の中の仕組みが個人情報を守ってくれるようになった。しかしお2人とも、今度は情報を自ら切り売りする時代が来ようとは、さぞかし驚かれていることだろう。

(デイリースポーツ・岡本 清)

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