入江聖奈 女子フェザー級金字塔 「トノサマガエル作戦」強気に攻めて大差判定
「東京五輪・ボクシング女子フェザー級・決勝」(3日、両国国技館)
女子フェザー級決勝で入江聖奈(20)=日体大=が2019年世界選手権覇者のペテシオ(フィリピン)に5-0で判定勝ちし、日本女子初出場で金メダルを獲得した。日本勢の優勝は1964年東京五輪バンタム級の桜井孝雄、12年ロンドン五輪ミドル級の村田諒太に続き3人目。今大会のメダルは4日の女子フライ級準決勝に臨む並木月海(自衛隊)、5日の男子フライ級準決勝に進んだ田中亮明(岐阜・中京高教)と合わせて3個となり、五輪の日本ボクシング1大会最多となった。
パーンと両手をたたくと、ピョンピョンとキャンバスでかえる跳び。「何回もほっぺをつねったんですけど、夢みたい」。泣きじゃくってわれに返ったのは表彰台だ。「気がついたら君が代が流れていた」。日本女子として初めて五輪切符を得て、初めて五輪のリングに立ち、初めてメダルを確定させた入江が、女子初の金メダルまで手に入れた。
ここまで2勝1敗のペテシオとは互いの手の内を知った仲。インファイトを仕掛けられてもジャブで距離を取り右ストレート、フックでポイントを稼いだ。左右にスイッチする相手にも距離感を狂わせない多彩な攻めは、小学2年から磨き抜いた左ジャブが起点になる。「男子のYouTubeで動画を見て練習したり、レジ袋を持ち上げて手首を鍛えてきた。小さい頃から頑張ってきたパンチで負けない自信はある」と「左を制する者は世界を制す」を体現した。
努力の裏には「逆上がりもできないくらいに運動音痴」だった過去。「運動が苦手な子にも、努力を諦めなかったら何かをつかむことができると教えてあげられたら」とうれしそうに話す。
「ふてぶてしくてつぶらな瞳。表情に人間味があっていとおしい」というカエル好きも、不器用な自身に重なるのか。実家で飼ったりグッズを集めたり。カエル探しの旅にも出たいという。小学校時代から指導する日本連盟の伊田武志女子強化委員長が、準決勝ではどっしり構える「ツノガエル作戦」、決勝は「トノサマガエル作戦」と命名。「殿様になるぞという強気の表れ。今日だけはトノサマガエルになれた」と胸を張った。
日体大3年生は今後、就職活動を始め「有終の美で終わりたい。大学いっぱいでボクシングはやめるつもり」と一区切りつける意向でいる。「カエル関連の就職先を探しているけど見つからないので、好きなゲーム関連で就活したい」と3年後のパリは見ていない。
桜井孝雄、村田諒太を含めて日本勢3個目の金メダルを獲得。しかし、男子の歴史の継承は、天衣無縫な20歳には似合わない。メダル確定で「5ミリ開いた」と言っていた歴史の扉を「ちょっと全開にしちゃったかな」。しなやかに軽やかに、笑顔とともに重い門扉を開放した。