文田、銀泣き グレコ37年ぶり金ならず 夢の続きパリで「世界一だと証明したい」
「東京五輪・レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級・決勝」(2日、幕張メッセAホール)
男子グレコローマンスタイル60キロ級で初出場の文田健一郎(25)=ミキハウス=は決勝で、オルタサンチェス(キューバ)に1-5で敗れ、銀メダルだった。グレコでは1984年ロサンゼルス五輪52キロ級の宮原厚次以来、37年ぶりの金メダルを逃した。女子76キロ級の皆川博恵(33)=クリナップ=が3位決定戦で周倩(中国)に敗れ、銅メダルを逃した。同68キロ級で16年リオデジャネイロ五輪69キロ級女王の土性沙羅(東新住建)は1回戦で敗れ、3日の敗者復活戦に回った。
膝に手をついて、うなだれた。まさかの完敗。足早にマットを降りた文田は、おえつを漏らしながら夢舞台を去った。「悔しいです。相手からの対策を自分の実力が上回れなかった」。世界王者として臨んだ文田に自分の土俵で戦わせるほど世界は甘くなかった。脇を差しにいっても、組み手で制されて何もできない。投げにいこうと下がると、場外に押し出され失点。反則で1点こそ得たが、“完封”されて終わった。
下半身の攻撃が禁じられるグレコローマンスタイルに強いこだわりを持つ。相手の脇に手を差し込んでクラッチし、自分の体を後方に反りながら高々と相手を放り投げる、代名詞の「反り投げ」。グレコだからこその大技だ。父敏郎さん(59)の「投げてなんぼ」という教えのもと授かった伝家の宝刀。最長で1日2時間、高校生相手にひたすら投げる練習を続けて体得した。
反って、投げて、反って、投げて、また反って-。「頭がくらくらした。今考えても一番戻りたくない時期」。人生で数万本は投げている計算になり、「他の人とはやってきた本数が違う。世界一多いんじゃないか。父にやらされて、自分でもやりたいと思って。それが感覚を磨いた」。
グレコの第一人者となったが、吉田沙保里、伊調馨らの女子や、タックルが中心の男子フリースタイルの影に隠れがち。「日本でレスリングと言えばフリー、女子、その後にグレコ。それが悔しくて、グレコにしかない魅力を僕が伝えていきたい」。最大のチャンスが五輪という舞台であり、金メダルだった。
初めての五輪は、派手に投げて豪快に勝つ自身のスタイル、思想を封じられたまま幕を閉じた。それでも「自分は投げしかないのでやめるつもりはない。相手に通用する投げを身につけたい」。シドニー、アテネ五輪代表の笹本睦コーチからは「五輪の借りは五輪でしか返せない」と声を掛けられ、うなずいた。「3年後は、父の教えてくれたレスリングが世界一だと証明したい」。夢の続きはパリでかなえる。