金メダルの岡慎之助 美しい体操生んだ基礎の反復練習と忍耐強さ
「パリ五輪・体操男子個人総合・決勝」(31日、ベルシー・アリーナ)
男子個人総合決勝で初出場の20歳、岡慎之助(20)=徳洲会=が6種目合計86・832点で金メダルを獲得した。安定した演技をそろえ、2種目目のあん馬でトップに立ち、0・233点差で逃げ切った。日本勢の制覇は、2012年ロンドン五輪から4大会連続で6人目。2連覇を狙った橋本大輝(22)=セントラルスポーツ=は84・598点で6位だった。
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血のにじむような努力をした岡の原点を知る恩師がいる。おかやまジュニア体操スクールの三宅裕二代表(57)は「一番の武器はきれいなところ」と強調する。
小学2年で入ってきた岡は柔軟性に優れていた。「器具に頼るとあまりよくない。きれいにすることや細かいところは反復練習なんで、すごく時間がかかる」という考えの下、5年生で初めて試合に出るまでの3年間は、ひたすら基礎練習。中学卒業後に徳洲会に入るまでは、1時間の倒立を日々続けていた。
倒立では汗がぽたぽたとじゅうたんに流れ落ち、その跡が今でも残っているほど壮絶だった。器具にもあまり触れず、柔軟などがメインメニュー。素直で、忍耐強かった岡少年は「本当にコツコツとやっていた」が、たった一度、限界を訴えた。
「お話があるんですけど」-。スクールの入り口で、リュックを背負ったまま意を決して切り出した。
「やめます!」-。
三宅代表は「無理」「どうぞ入りなさい」と一蹴した。すぐに諦めて、すっと入っていったのが素直な岡らしかった。
才能を発揮したのは2015年、小学6年で出場した14歳以下のフューチャーカップの個人と団体総合で優勝したときだった。あん馬よりも低い身長で立派な演技をする少年に世界のコーチがくぎ付けになり「ワオ!」と口々に驚いた。「『僕ってすごいんじゃないの』と思ったと思う。日頃見ない顔をして、表彰台でニコッとしていたから、僕も写真をいっぱい撮りました」。当時の興奮はすさまじかった。
「優勝したのがうれしくて、どんどん体操が好きになっていった」。基礎に加えて個性も伸びていった。中学生の時には地元のテレビ局の人に「画面から出る。そこ(演技)に合わせているのに演技をしていると大きく見える。あんなにちっちゃいのに」と言われたことをきっかけに、柔軟性の高い体をしならせた、ダイナミックで美しい演技を磨いた。
基礎と、美しい体操が大一番で生きた。橋本や中国の張にミスが出る中、着地をぴたりと止め続け、大過失はなかった。張との差は0・233。一つでも何かが欠けていたらメダルの色は変わっていた。「準備してきたものがあった」と大きくうなずいた岡は「質や完成度を上げて、もっともっとレベルアップしたい」と底知れぬ向上心をのぞかせた。