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【スポーツ】野口みずき、伝えたかった

 アテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずき(37)=シスメックス=が3月13日、リオデジャネイロ五輪代表選考会を兼ねた名古屋ウィメンズマラソンを走った。2013年のモスクワ世界陸上で途中棄権して以来、2年半ぶりのマラソン。レース前から自身が「最後の五輪挑戦」と位置づけていたが、結果は2時間33分54秒で23位だった。

 マラソンを完走したのは2012年の名古屋以来。08年の北京五輪を直前の故障で欠場して以降は故障と体調不良の繰り返し。復調の兆しが見えてはまた沈むと、精神的にも苦しんだ。

 「走った距離は裏切らない」と言う練習の虫。しかし、その蓄積か年齢によるものか、35歳を過ぎてからは疲労が抜けにくくなった。「練習で(到達)ラインを決めても達成できず、もがいていた。一度は走るのが怖いと思ったこともあった」と振り返る。

 高校卒業後から19年間、野口を見てきた広瀬永和監督もあまりにバランスが崩れたフォームに言葉を失ったという。それでも走り続けるまな弟子の姿に「そこまでする必要があるのか」と涙したと明かした。一年前には「もうやめたらどうか」とまで言ったそうだ。

 不振の原因の一つは「足が抜ける」という長距離トップランナー独特の症状だった。この日のレースでも「5キロで足が抜ける感じになった」と振り返っていた。恩師に引退をすすめられるほどの状態になっても現役にこだわったのは、この症状を克服したいという思いがあった。

 レース後の記者会見で野口は説明した。「足が抜ける状態はマラソン選手や長距離選手に多く、故障というより神経的なものだと思う。自分で何とか直そうと試行錯誤しながらやっていた。悩んでいる人がいっぱいいるので(克服して)悩んでいる人に伝えることができたらと思っていた」

 症状は人によって違いがあり、足に力が入らず自分でコントロールできない感覚や、違和感やしびれを感じる場合も。明確な対処方法もなく引退に追い込まれる場合もあるという。

 野口の場合は11年から症状が出始めた。13年の名古屋ウィメンズでは一度もその感覚が出ず「克服できたかなと思った」と一度は安心した。しかし、14、15年は再びその症状が出て苦しんだ。

 トップアスリートの引き際は難しい。潔く去るのも美しいが、野口はそれを選ばなかった。あえて身を削って伝えたいことがあった。それが大仰なことではなく、練習量の多いランナーが人知れず苦しむ試練だったのが、いかにも野口らしいと思った。

 「(克服方法を)伝えることができなかったことは悔しい」と言った。それでも「モスクワの途中棄権が心の中に引っかかって怖いという思いもあった。でも、それを克服してマラソンでゴールしたかった」と話す表情は、すべてを出し切った達成感があふれていた。すがすがしい笑顔に、記者会見場の拍手はいつまでも鳴りやまなかった。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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