フレッシュであり続けた46年、大御所ロックバンド・ムーンライダーズに新作について訊いた

70年代半ばから現在に至るまで、その時々の最先端のサウンドを取り入れながら日本のロック/ポップス史に大きな足跡を残してきたムーンライダーズ。

2021年にはデビュー45周年を迎え、近年は再びライブを活発化。その合間に完成させた11年ぶりの新作『It’s the moooonriders!』は、6人それぞれがソロとしても確固たる個性を放つ才人集団のバンド・マジックが、今ならではの感覚で具現化したものとなっている。

正式なメンバーとなったドラマーの夏秋文尚、カメラ=万年筆の佐藤優介やスカートこと澤部渡という若い世代の好サポートも得ながら、コロナ禍のなかで着実に新たな一歩を踏み出した新作について、鈴木慶一と実弟でもある鈴木博文に語ってもらった。

取材・文/吉本秀純 写真/木村華子

■ 「ライブを重ねてレコーディング」バンド本来のあり方に──11年ぶりのニューアルバムとはいえ、期間限定などで何度かライブをおこなったり、各メンバーのソロ活動も盛んだったので、完全休止していたわけではなかったと思いますが。

慶一「そうですよね。要するに2011年に無期限活動休止と宣言したわりに、ライブだけは。1番大きなこととしては、2013年にかしぶち(哲郎)くんが亡くなってその一周忌のライブをやったり、2016年に40周年のライブハウス・ツアーをやろうとなったんですけど、あんなに全国各地のライブハウスを細かく回ったことはそれまでなかったからね」

博文「ヘトヘトになりました」

慶一「それで2021年が45周年になるので、2020年くらいから準備して何かやろうと。それはライブかもしれないしアルバムかもしれない。そしたら、(コロナ禍で)外に出れなくなっちゃったので、みんなどうせ外へ出ないんだったら家でデモテープを作って、曲を集めてみないか? ということになったんですね。で、もう1分くらいの短いのでもいいよ、キッカケとなるような断片でもいいからと声をかけて何曲か集まったんだけど、一旦そこでまた休んだんだね」

──ライブなどはもちろん、あの時期は世の中が完全に停滞していましたもんね・・・。

慶一「で、2020年の8月25日、『カメラ=万年筆』というアルバムを1980年に出してから40年経ったタイミングで、コレをライブで再現してみようというアイデアが出てきた。しかし、コロナで観客は入れられない。じゃあ、渋谷のクアトロで無観客でやろうよと」

博文「そうだね」

慶一「ちょうど発売日でピッタリ40年でやることになって、6人で集まってリハーサルをし、ひょっとしたら出来ないかもしれないけどやってみようと。なぜかと言うと30歳前後のときに作ったアルバムで・・・」

博文「テンポが速い(笑)」

慶一「それが1番大きい(笑)。それとね、コンピューターを使う前なので、ややこしいことを全部手動でしているんですよ。人力テクノと呼んでいたけども。で、それをリハーサルしてみたら、もちろん出来ないこともあるんだけど、出来ることもたくさんあることに気付いたんですよ」

──そうなんですね。

慶一「その配信では、映像チームも来てもらって、見え方の演出もちゃんとやってもらい、ステージで演奏しないで客席で円形になって演奏したので、まるでレコーディングやリハーサルの風景をお見せするような形になって。それも面白いと思った」

博文「でも完全に『再現』なんで、(アルバムに)バケツで水をパチャパチャとやる音も入っているんだけど、それもやんなくちゃいけなかった」

慶一「今だったらバケツでチャポンとやった音を録音して波形で貼り付ければ、リズムにピッタリとなるんだけど、当時はそういうのもないんで。1曲を通してチャポン、チャポンと(笑)」

博文「私がやりましたよ(笑)。録音エンジニアには、マイクが高価だから絶対に濡らさないでくださいって注意されながら」

慶一「そのあとは10月に中野サンプラザでライブをやって、それがなかなか上手くいった。選曲も、なんと普段はあんまり口を出さないこの鈴木博文さんが決めて。それまでは私がA&Rのように決めたり、叩き台を作ってそれをみんなで変更するか。それで鈴木博文の選曲でやってみると、かしぶちくんの曲がなくなっていたんだね」

博文「それは意図的だよね」

慶一「かしぶちくんの曲っていうのは定番だったんだよね。必ずやる曲があった。でも、定番を外そうというイメージもあったので、それが外れた。そして2021年に入って、6月にまた六本木のEXシアターで『ザ・スーパームーン』という倍の12人編成でやって、それもなかなかいい感じだった」

博文「うん」

慶一「要するにバンド本来のあり方というか、バンドを始めた頃というのはすぐにレコードは出せないので、ライブを重ねていろんな経路を通ってレコーディングに辿り着くから、今回もそんな感じですよ。だって11年ぶりに出すんだから、やっぱり手間暇かかりますよ。やれるかやれないか、いろいろ試しながら『これでレコーディングできるな』と21年に思ったので、秋から録音に入ったわけですね」

■ Daokoやxiangyuらミュージシャンが参加──そして完成したニューアルバム『It’s the moooonriders!』ですが、メンバー全員が70歳前後になった今ならではの部分ももちろんあるんですが、コーラスの響きなどの全体にむしろ若くなったような感覚が聴き取れたのが意外でした。

博文「それは2人の女性ボーカルのせいでしょうね」

慶一「Daokoさんとかxiangyuさんという、ゲストボーカルのおかげもありますね。それもあるし、コーラスを録るときにはいつもクジラ(武川)が中心にいたんだけど、武川の声が変わってしまったので、あのガラガラの低い声を活かせるように使い方を変えたんですよ」

博文「バーズ(The Byrds)的なコーラスが出来なくなっちゃったんだね」

慶一「そう。いつも『コレはバーズで行こう』と言ってたんだけど、それが出来なくなったので、そこに代わりにドラムの夏秋くんやキーボードの佐藤優介くんが入ると、ホントにビックリするくらい若々しい声質になって」

──なるほど。

慶一「あとは、レコーディングの最後のコーラスを入れる時期に白井が2週間ほど入院していたので、そこでまた変わりました。そういったことが加味されているので、やっぱり11年前とは違うし、かしぶちくんの曲がないということに途中で気付くわけだけど」

博文「まぁ、それが1番大きいでしょうね。うん」

慶一「レコ-ディグの真ん中くらいで『ここらへんでかしぶちくんの新曲だよな、普通は』と。かしぶちくんの曲というのは、クラシカルだったりエキゾチックだったり映画音楽的だったり、非常に独自の雰囲気を醸し出すところが重要だったんだけど、それがない。だから、ちょっと私がかしぶちくんが書きそうな歌詞を意識した曲もあるけどね」

──3曲目の『S.A.D.』の歌詞がそうだとほかのインタビュー記事で読みました。

慶一「そうそう。通常、私は『リキュール』なんて言葉は使わないから。これはかしぶちくんが使うだろうなという言葉です」

■「21世紀に入ってから、歌詞はネット検索に助けてもらう」(慶一)──今回はいつもと違ってコンセプトやテーマを決めずに作っていったそうですが、なにか慶一さんからディレクションしたことなどはあったんですか?

慶一「まず、デモテープの段階で歌詞も同時にあった方がいい、と鈴木博文が主張したんだよね。なぜか」

博文「なぜかって当たり前じゃん、そんなの(笑)」

慶一「いわゆるロック・バンドやポップ・ミュージックの、基本といえば基本だよね。でも、今までずっとそれを怠ってさ、曲から作って後から(歌詞を)付けていたんだけど、私が2000年代に入って曽我部(恵一)くんとソロを3つ作ったときに『あれっ、なんで歌詞ないんですか?』と言われたんだね。そのときから歌詞はすぐ作るようにしている。よっぽどのことがない限り」

──2000年代以降の慶一さんのソロ作は、どれも言葉の強度が増した感がありました。

慶一「曲はパッと出来るんだよね。でも、歌詞は文字を頭のなかに入れとかないと、なかなか出ないと思うんだ。でも、21世紀に入ってからはコンピューターのおかげでどんどん出来るようになったね。検索して助けてもらう(笑)。あと、反語、類語とかさ」

博文「そんなことしてんの?」

慶一「類語だと『そんなことしてんの?』に近い言葉がどんどん出てくるんだ(笑)。すると、そのメロディーに乗る言葉にブチ当たる可能性がある。あと、打ち間違いとかね。打ち間違いでトンデモない変換になったりすると、これ面白いなと。人間は間違える生きものですから」

──博文さんは、あまりそういう作り方はしないですか?

博文「全然しないね」

慶一「この人は真面目にじっくり考えながら」

博文「まずはパソコンで打ちませんからね。鉛筆で書きます」

慶一「鉛筆で書くの!? すごいねぇ」

■ 「言いたいことが湧いてきて、それが歌われる音楽になる」(慶一)──歌詞では「親より偉い子供はいない」「再開発がやってくる、いやいや」あたりもタイトル通りの内容で痛快ですが、ラストに置かれた慶一さん曲の『私は愚民』のように、最近の世間の動きに対してストレートに反応した歌詞が多いのが特徴的です。

慶一「やっぱり2020年に始めたってことは意味があるな。多くのことは偶然なんだけど、後で意味があるなと思ったりする。やはり外に出れない状況で作ってると、いろいろと文句があるわけだ。言いたいことがどんどん湧いてくるんですね」

──はい。

慶一「だから、言いたいことがあるってことは、いわゆるインストゥルメンタルを作っているわけではないので、ロックでもフォークでもポップ・ミュージックでもなんでもいいんだけど、そういう言葉が歌われる音楽になるってことだよね。で、録音が終わったら第三次世界大戦の危機みたいになってるし、困ったもんだ」

博文「自分はね、愚かであるというところから始まっているという」

──博文さん作の1曲目『monorail』も、朗読風の歌詞やピアノの残響音を逆回転させたなかからだんだんとストーリーが浮かび上がってきて示唆的です。

慶一「この『monorail』は、1番意外なものを頭に持ってこようということになったんだよね。コレは何を歌ってるんだっけ?」

博文「愚かな人間が愚かを歌っている。で、年老いていくと」

慶一「で、なぜ最後に『私は愚民』が来ているかというと、後半のインプロが長いんですよ。これが途中にあると飛ばされちゃうから最後の方がいいかなということで偶然そうしたら、『愚か』で始まって『愚か』で締めてたんだ」

博文「これは偶然なんですよ、ホントにね」

慶一「偶然は恐ろしいわ。やっぱり人間はモノを作るときに、ハイになってるんだよね。そういうときというのは、自分たちが偶然と思っていることがなんか結びついてしまうことがあるんだな」

■「作ったときが旬なんて音楽はないですよ、きっと」(博文)──実は、個人的に去年くらいから偶然にライダーズの過去作品をザッと聴き直したりしていたんですけど、改めて印象的だったのは、やっぱりその作品が出たときの時代の雰囲気などもすごく反映しているなということで。

慶一「自分らの年齢もあるし、それと時代との関係が色濃く出てるっちゃ出てるね」

──常にその時々の先端のサウンドを取り入れている、というのは以前から思っていたんですが。

博文「そのへん、意識してそういうことはしていないんだけども。たぶん、聴く人の方がその時代に生きていて、その時代にしてるんじゃないかと私は思いますよ。音楽というのはそういうもん。形を変えて動いていくものだと思うんです。だから、昔のライダーズを聴いても、最近面白いなと思うのね。なぜかと言えば、ライブでやってるからだけど(笑)」

慶一「自分たちがリスナーになっちゃってるんだ(笑)」

博文「弾きながらプレーヤーからリスナーになってるという、すごい恐ろしいことになってる」

慶一「そういう瞬間があるんだ、不思議だね。昔はそんなことはなかったけど。やってるときにそれを感じるのは、それだけ遥か昔に作った曲なんだろうな。例えば、こないだ野音でやったときに『ゆうがたフレンド』を歌ってて、こんなにイイ曲を白井はよく作ったなーと思って(笑)」

博文「演奏しながらリスナーになるという、新たなる境地に入ってきましたよ」

──過去の曲もフレッシュに楽しみながら演奏できるとは、素晴らしいことです(笑)。

博文「だから、作ったときが旬なんて音楽はないですよ、きっと。と言い切れる。ムーンライダーズに限ってですよ。つまり、旬のものを作らないという(笑)」

慶一「でも、さっきも言ったかもしれないけど、今回のアルバムを作っていたときは非常に不安があったし、プレッシャーもあったんです」

博文「この人はね、プレッシャーに弱いんです」

慶一「それはさ・・・(前作よりも)クオリティーを上げなきゃいけないじゃないの」

博文「そんなに考えたことはないな(笑)。白井良明と私は、あまり考えない。でも、考える人がほかにいるから、ちょうどバランスが取れる」

慶一「そうそう。私はクオリティーを考えるから、前作よりもいいものを作らなきゃいけないと、それを目指すわけだよね。で、やっている間にどこにもない音楽が出来たと思うんだよね。要するにジャンル不明の。だから、そのクオリティーを上げることに関してはクリアしたかなと思いますよ」

博文「その道を作るのは、だいたいこの人。なんでこんな変なコーラスをココに入れるんだ? とか。これは合ってるのかな? というアイデアは、この人が出しますね。ま、出来てみるとなるほどな、となるんですけど」

慶一「11曲目に『Smile』って曲があるけど(作詞・作曲は鈴木博文)、私がホーン・アレンジを付けたら、最初は納得してない顔をしてたんだ(笑)」

博文「うん。入れたときは納得してなかったね」

慶一「ホーン・アレンジの手法が、私はやっぱりコードからわざとアウトしていくようなのが多くて。言ってみればピエール・バルーさんの『サ・ヴァ、サ・ヴィアン』みたいなアウト感がいいんじゃないの? という意図だった。だから、たぶん考える方はこれが合うんじゃないの? と思ってるからそう作るんだけど、付けられちゃった方は突然そんなことが空から降ってきたわけで。納得していいなと思うまでは時間がかかるんじゃない?」

──そういう関係性で、今後もムーンライダーズは続いていくのでしょうね。

慶一「これからはどうかな? わかんない」

博文「言われることを全部素直に聞いちゃったりなんかしてね(笑)」

慶一「でも、出来たばっかりだけど、次を思いついたらまたすぐにやりますよ」

──最後に。事前にお願いしてたことなんですが、最新作と併せて2022年の今にこれからムーンライダーズの過去作を聴き進めていくなら、どれからがいいと思うかを聞かせてもらえませんか?

博文「難しいけど、(2人で)合致したのは『Dire Morons TRIBUNE』(2001年)ですね」

慶一「ま、でも、意外とメンバーの個性を知りたいんであれば『Animal Index』(1985年)がいいかもしれないね。アレはそれぞれ2曲ずつと決めて作ったアルバムだったから」

【コラム】最新作と併せて聴いてみたい、ムーンライダーズ過去作5選お2人からインタビューの最後に挙がった2枚に加えて、インタビューのなかで言及されたものや最新作のアルバム・タイトルに引用された作品をプラス。ムーンライダーズ関連の膨大なディスコグラフィーのなかから今の入門編として5枚をピックアップしてみました。

■『カメラ=万年筆』(1980年)ヌーヴェル・ヴァーグに多大な影響を与えた理論をタイトルに冠し、収録曲すべてが何らかの映画の題名か主題歌で統一された80年代ライダーズの幕開けを告げた作品。ダブやミュージック・コンクレートなどの手法を取り入れている一方で、XTCやモノクローム・セットなどの当時の英国のポスト・パンク~ニューウェイヴ勢からの影響を強く感じさせるアップ・テンポな曲が多いのも特徴的。

■『Animal Index』(1985年)タイトル通りに動物という共通テーマのもとに、メンバー6人がそれぞれ2曲ずつ作曲したものを収録。翌年の濃密かつ重厚なタッチの大作『Don’t Trust Over Thirty』(1986年)よりも軽快で、80年代らしいシンセなどを多用したサウンドは、最近のシティ・ポップ再評価的な流れで聴くにも最適か。

■『最後の晩餐 ~Christ,Who’s gonna die first?』(1991年)最新作のタイトルは、本作の冒頭に収録されたXTCのアンディ・パートリッジによるメンバー紹介の部分から取られており、それを提案したのは佐藤優介とともに現在のライダーズを好サポートするスカートこと澤部渡だった。アシッド・ハウスなどを大胆に取り入れた音は、今の耳にも新鮮に響く。

■『Dire Morons TRIBUNE』(2001年)時期的に9・11同時多発テロの前後に制作され、ロック、カントリーなどのルーツ音楽、電子音楽などのさまざまな要素が偏執狂的なスタジオ・ワークによって濃縮された会心作。ポスト・ロック以降の録音テクノロジーを駆使しつつ、不穏な時代のムードも反映しながら、21世紀のライダーズを提示した。

■ 鈴木慶一『ヘイト船長とラヴ航海士』(2008年)曾我部恵一をプロデューサーに迎えた「ヘイト船長3部作」の始まりとなったソロ作。両者のやり取りによって緻密な音処理が施されながらも、鈴木のフォーク・シンガー的な側面を新たな感覚で引き出した音は、インタビューでも言及されていたように歌詞の重要さを再認識させる契機ともなった。

文/吉本秀純

(Lmaga.jp)

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