酒井法子、7年越しの主演映画「プロの仕事を観ていただきたい」

酒井法子主演で2014年に製作されながら公開されることのなかった幻の映画『空蝉の森』が、製作から7年の時を経て公開された。3カ月の間失踪し、戻ってきたときには失踪中の記憶がないひとりの女性を巡るサスペンス。近年は舞台やコンサートでも活躍する酒井法子に、幻の映画について話を訊いた。

取材・文/春岡勇二 写真/本郷淳三

「難しい役柄に挑むのは嫌いじゃない」(酒井法子)

──3カ月もの間失踪し、突如戻ってきた妻・結子。けれど夫は「別人だ」と主張する・・・この脚本を初めて読まれたときの感想はどうでしたか?

ミステリアスな物語で、私が演じる結子という役柄には少し危うい人の気配も感じられるし、物語の展開としてバイオレンスな部分もあるので、体当たり的なお芝居になるなとは思いました。

──ヒロイン・結子に感じられた危うさというのは具体的に言うと?

謎めいた女性なんですが、ドラマチックで切ない人生を生きてきた人ですよね。小さいころにとんでもない目に遭って人生が狂い、彼女が悪いわけじゃないのに、いつも陽のあたらないところにいることを強いられて。そういう生き方が今の彼女を作りあげていった、そういう気配ですね。

──そんなヒロインをどのように演じようか、作っていこうか。演技プランみたいなものはあったのですか?

彼女は秘密に包まれたまま、物語の進行とともにミッションをひとつひとつ達成していくのですが、印象はあくまでも淡々としている感じを出せたらと思いました。強さを見せるところもありますが、やはり心には大きな空洞があって、本当は温もりとか愛情とかを求めているのに手に入らず、結局は感情を押し殺して生きていくしかない。そこから生まれる悲しさみたいなものを表せたらと、そんな感じでした。

──かなり難しい役柄ですよね。

そうですね、でも、難しいからおもしろいということもあるので、難しい役柄に挑むのは嫌いじゃないです。「これでいいのかな!?」っていう答えを探しながらキャラクターを作っていくわけで、そういう作業は嫌いではないですね。

──亀井亨監督とは役作りについて話し合いましたか?

いや、どちらかといえば任せてもらった感じです。シーンごとに、「今、結子はここにいるよね」っていう時空間の打ち合わせはやりましたけど。あと、ラストのクライマックスは撮り直しができないということで、綿密に話し合いました。

──タイトルにも「森」が使われていますが、森で撮られたシーンがすごく印象に残ります。主な撮影地は静岡から伊豆方面だと思うのですが、あの森もそうですか。

そうです。樹海だったと思います。深くてきれいで、そして怖くて。とても素敵な森でした。

──あの森だけは別場所、たとえば屋久島のような、そういうところへ行って撮られたのかと思っていました。

残念ながら、行っていません(笑)。屋久島、行きたかったですね。でも、ほんとうに深くて美しい森で、屋久島のようだと言われたら私もそう思います。

「7年経ちましたが、それが叶うのはとてもうれしい」(酒井法子)

──共演された方々についてうかがいたいのですが、まず現場の雰囲気はどのような感じだったのでしょうか。

内容が内容だけに、いつも楽しかったというわけにはいきませんでしたけど(笑)。でも、かなり和やかではありました。西岡コ馬さんと角替和枝さんとは、この作品以前にも共演したことがあって。西岡さんにはよく「これ、覚えてる?」なんて訊かれたりして。やさしいんですよ。角替さんも、現場がちょっと寒くなったりして、羽織るものを控室に取りに行こうとしたら、「いいわよ、私の方が近いから持ってきてあげる」っておっしゃってくださったり、大先輩なのにホントに気さくでやさしくて。

──とても残念なことに、角替さんは2018年に亡くなられてしまって。酒井さんとの共演はもとより、この映画には角替さんの私生活でのパートナー(夫)の柄本明さんも出ておられるので、そういう意味でも貴重な作品です。

ほんとにそうですね。

──今回、共演場面の多い夫役の斎藤歩さんはどうですか?

斎藤さんは狂気を表すのがお上手ですよね。得体の知れない怖さ。以前、舞台でご一緒させてもらったのですが、斉藤さんは演出も音楽も担当されて才能豊かな方なんです。舞台俳優としての演技はもちろんですが、今回の映画でもなんていうのかな、立体的なお芝居で私の演技を受けてくださって。私はもう斉藤さんの器のなかで浮遊しているみたいなものでした。

──もう一人の相手役である、警部役の柄本明さんとの共演はいかがでしたか?

緊張しました(笑)。柄本さんは寡黙な方で、現場にもいつもすーっと入ってきて、役のままそこにいらっしゃるんですけど、それも役作りしてきたぜって感じでは全然なくて、自然体なんです。それで本番になると飄々と演じられて、ただただスゴいなと。それでも今回は柄本さんが珍しく感情を爆発させるお芝居もあるので、いつもと違う柄本さんを見てもらえる気もします。

──この映画は実は2015年に公開される予定だったのがさまざまな事情で見送られ、7年のときを経て公開に至ったわけですが、それについてはどのようにお考えですか?

こういうケースは、この私たちの作品以外でも時々あることですが、やはり私たち出演者も、製作スタッフのみんなも、多くのお客さまに観ていただくことを目的に作品に関わっているので、7年経ちましたが、それが叶うのはとてもうれしいです。私たちのプロとしての仕事を観ていただきたいです。

──最後に、これからどういったお仕事をしていきたいとかありますか?

2021年8月、(日本の女流作詞家の先駆けで知られる)岩谷時子さんの生誕105年記念の朗読劇『ラストダンスは私に』に出演させていただいて、私は越路吹雪さんの役をほかの3人の方(貴城けい、真琴つばさ、友近)と日替わりで演じたんですが、これが楽しくて。

──そうなんですね。

そのときは朗読劇でしたけど、越路さんの歌も歌わせてもらって。実は昔から、テレビカメラの前で歌うのが苦手で、緊張してしまうんですね。でも、ステージで歌うのは好きなんです。映画も好きですけど、コンサートのお仕事もやっていけたらいいなと思っています。

(Lmaga.jp)

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