柚希礼音「ひとりでは無力」、宝塚トップで知ったリーダー像

19世紀半ば、産業革命まっただなかのアメリカ・ローウェルで、女性の権利を求めて闘った女性たちを描いたミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』が今秋、東京・大阪で上演。貧しい家族を助けるため、また自らの自由を得るため、大規模な紡績工場が立ち並ぶローウェルへやってくるサラ・バグリーを演じる柚希礼音に、話を訊いた。

「みんなが賛同してくれると大きな力に」(柚希礼音)

──本作は自由を求めて闘った女性を描いていますね。

賃金や労働時間、労働環境があまりにも酷い女性たちが声を上げるのは、男女の立場も違う時代ですし、すごく勇気がいること。ここに描かれている女性たちは、本当に勇気のある人たちだと思います。

──サラ・バグリーは、女性の権利を求めて労働争議の場でみんなを率いた実在の人物です。柚希さんも宝塚でトップスターを経験されたという点で共感する点はありませんか?

宝塚のトップを経験して分かったのは、自分ひとりで立ち上がっても無力であること、みんなが賛同してくれることによって大きな力になること。

トップ時代に、若い子を引き上げようと、踊りを教えたり声をかけたりしましたが、その子が悩んでなかったり、今、欲しい言葉じゃなかったら伸びないということも分かりました。

でも、そのときは分からなくても、数年後に「あの時の言葉が分かりました」と言ってくれることもあって。逆に自分が毎日、ただひたすらに前を向いて闘っていると、その姿を見て「あれってどうやるんですか」と聞かれることが多くなったり。

リーダーとしていろいろ体験したので、サラが矢面に立って、責任を持って前を進んだからこそ、みんなが信頼してついていくんだろうと共感します。

私がサラの一番の味方になって、本当に世のため、自分自身のため、女性のために立ち上がった人だと知ってもらえるよう、細かく演じたいと思いますし、説得力のある、中身のある人にしたいです。

──これまでもナポレオンやマタ・ハリなど実在する人物を演じられました。架空の人物と実在の人物では、演じるにあたって何か違いはありますか?

実在の人物は資料が多いので、たくさん参考にできます。ただ、自伝以外はその人の周りが書いていることなので、「おいおい、そんなこと言うなよ」と、本人の気分になることがたくさんありました。

特にナポレオンは、さっきまで味方だった人が5秒後には敵というようなことをたくさん経験して、すごく苦戦した人。周りの人が書いたことに「本当にナポレオンのことを理解していた人は誰?」と、だんだん腹が立って来たり(笑)。

サラ・バグリーに対しても、周りの人が何を言ったか、そのあたりから紐解いていって、本当は何を求めて何をしたのか、実在した人物だからこその表現をしたいです。

──今回は19世紀半ばのアメリカが舞台ですが、その時代の人物を演じる上での役作りはどのようにされますか?

その時代の生活がどんなものだったのか、ストーリーに関わらず知るようにしていて。知った上でも分からないことは、そういうふうに生活してみます。そうすると性格も全然違ってくるみたいで。物静かな人だったらなるべく物静かに過ごすようになります。

──そういうふうに過ごされて、舞台以外の柚希さんにも何か変化はあるんでしょうか。

すごくあるみたいです。楽屋での過ごし方も違うみたいで、説教ばかりする男の人の役では「あのときの柚希さんは怖かった」と言われたことも(笑)。ロミオみたいにかわいい役のときは、急にかわいくなるみたいです。役がしっくり来るように自分で作っていかないといけないので、稽古中はなるべく役の雰囲気で過ごしますね。

──役がしっくり来たときは、舞台上からの景色も違いますか?

そうなったら最高で、もう舞台と客席ではなくなります。たとえば、兵士たちが並んでいて、風が吹いていて、風景も空気も感じます。お客さまのことも、市民がいるように見えたり(笑)。そうなると最高に楽しいのですが、それは自分でそういうふうにもって行かないといけなくて、でも、なかなか行けないところです。

──集中力が必要ですね。特に長期公演だと、その役で居続けるという力が必要ですね。

そうなんです。私たちは毎日公演をしていますが、お客さまのなかには、その日が人生で初めて観る舞台で、それから一生観ない方もいるかもしれない。入院していて、頑張って外出届けを出して観に来られた舞台かもしれない。その1回1回がどれだけ大切か、20年やってきて身をもって痛感して・・・。

全国各地をまわって、海外も行って、舞台ってエンタテインメントではあるけれども、それに救いを求めたり、勇気をもらったり、明日も頑張って生きていこうと思ってくださる方がたくさんいらっしゃるということが分かりました。だから大切な公演に向き合っているときは、すごく神経質になりますね。

「男役じゃない方が恥ずかしいと思う時期も」(柚希礼音)

──本作は新作ですが、新作をクリエイトする醍醐味は何でしょう?

有名作品や再演だと「何々の作品をやる」となったら、「あ、あれね」と観劇前に興味を持ってくださることがありますが、新作は未知だからこそ初日にすごく熱狂的な舞台になるという経験もしていて。ただ、そういう状況を生み出すには、本当にかなり深く作っていかないといけません。

──幕が開くまでは、それが正しいのかどうかという不安もありますか?

いつもあります。初日はこれでいいのか、受け入れていただけるのかと、とても不安です。

──誰もされていないという点で、やりがいはいかがでしょうか?

誰かがやった役も、自分なりのものにするというやりがいはありますが、新作はどういうふうにでも作れるという自由と責任があります。でも、自分の中身が詰まってないとオリジナルには立ち向かえないなと思います。

──20周年の話もありましたが、この20年はいかがでしたか?

20周年というとベテランの域に達してくると思いますが、私は女性役も演じるようになってまだ4年なので、仕草や役作り、歌い方、発声と何から何まで分からないことだらけです。

今も研究中ですが、舞台に立つという点では20年間やってきたので、どのくらい稽古しないと舞台に立ってはいけないとか、そういうことは分かるようになりました。

──宝塚で男役として16年過ごされてきて、今、女性の役を演じてみていかがですか?

バレエ以外の芸事は男役で始まっていて、最初は男役の芝居や歌を恥ずかしいと・・・。ですが、すっかり男役じゃない方が恥ずかしいと思う時期もありました。

ただ「男役は10年かかる」と言われるように、身振り手振り、歩き方や座り方、飲み方などを研究して、最初はぎこちなかったものがだんだんとかっこよくなっていく、そんな10年を過ごしての男役だったなと改めて実感します。

──今回はソニンさんとの共演、初タッグですが、ソニンさんの印象聞かせてください。

とても求心力があって、すごく訴える思いの強い方ですね。いつか共演したいと思っていたので、この作品でどういうふうに化学反応が起こるか楽しみです。インタビューなどでお話を聞いていると、休日も朝から晩までメンテナンスをして過ごす感じとか、初日前のピリつき方とか、私と似ているところもあるので、すごく楽しみです。

──今回はロックミュージカルです、歌の方はいかがでしょうか?

歌唱指導の方に歌稽古をしてもらって、そのときに「自分に合った歌い方がある」と言われて。「ソニンちゃんのように歌いたくても、あなたはそういう声帯じゃないんだから、自分の声帯が生きる、自分の体に一番いい声を出しなさい」と言われたことが衝撃的でした。

女性役としてはまだひよっこなので、歌の上手い女性の真似をしたり、どうやって声を出しているんだろうと、色々研究したのですが、体格が違うということは声帯も違う。背が高いということは、太くて低い声であること。それが生きる歌い方があるということを教えてもらいました。なので、今回はその辺りも聴いていただければと思います。

本作は19世紀半ばに女性の権利を求めて労働争議を率いたサラ・バグリーと、彼女とぶつかり合いながらも固い友情を結ぶハリエット・ファーリー(ソニン)ら、自由を求めて闘った女性たちを描いた舞台。ブロードウェイの新進気鋭のソングライティング・コンビ、クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーが音楽・詞を手がけた新作のロックミュージカルで、世界に先駆けて日本で上演される。大阪公演は10月25日から27日まで「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)にて、チケットはS席12500円ほか(7月20日発売)。

取材・文/岩本

(Lmaga.jp)

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