艶と深さ、大人のポップスを奏でる蘭華「堪え忍ぶ間に培われた精神性、かな」

透明感のある美しい歌声と、和とオリエンタルを融合させたサウンドで注目を集める女性シンガーソングライター・蘭華。2016年には、1stアルバム『東京恋文』で日本レコード大賞企画賞を受賞。そんな彼女が、押尾コータローや佐藤準らも名を連ねるニューアルバム『悲しみにつかれたら』を9月19日にリリースした。まるで昭和を彩った名曲を彷彿とさせる「艶」と「深さ」に満ちた歌世界。年齢は非公表という彼女に、その「大人」な楽曲群の根底を尋ねた。

「コピーライター養成講座か浅草の句会か、という二択」(蘭華)

──年齢は非公表、なんですよね?

そうですね、一応(笑)。

──明らかに私より若いと思うんですが、なんていうか、ずっと上の世代の音楽を聴いてるようで・・・。

よく言われます(笑)。

──最新作『悲しみにつかれたら』では、これまでのオリエンタルなサウンドに、ブルースやスウィング、シャンソンなんかも取り入れて、さらに幅は広がりつつ。で、歌われていることといえば、「愛と喪失」「喪失と再生」といった人生にまつわる悲哀。渋すぎませんか?

たしかに、渋いですね(笑)。

──これを作り上げる蘭華さんとはいったいどんな人物なのか、そこをまず知りたくて。

どうなんでしょうね(笑)。昔から、人生とか家族愛、望郷の思いとか、そういうテーマで楽曲を書く傾向にあったんですよ。そうすると、テーマがテーマだけに、あんまりこう・・・薄っぺらいことは書けないじゃないですか? あと、聴いてくださる方が50~70代という大人の方が多いので。あんまりにも子どもっぽいことを書いちゃったら・・・って意識しているわけじゃないんですけど。ホント、どこから来てるんでしょうね(笑)。

──ご自身でも分からない、と(笑)。

和の心じゃないですけど・・・昔から和にまつわることがすごく好きで。神社仏閣巡りにもハマってたし・・・。あと、浅草の句会かな。

──俳句、ですか?

そう、俳句です。10年くらい前からに8年ほど通っていたんですよ。そこで侘・寂(わび・さび)や季語を学んで。その句会に来てたのは、70~90代のおじいちゃん、おばあちゃんばかりで。私ひとりだけ、浮いているという(笑)。

──そりゃ、そうですよね。でも、なぜ句会に?

当時所属してた事務所の社長やマネージャーに、「蘭華の書く詞は幼い、ストレート過ぎる」って言われて。「なんでストレートで悪いの?」という気持ちはありつつも、「そっか。だから、メジャーデビューできないんだ・・・」と思って。じゃあ、言葉をもっとブラッシュアップできるように勉強しなきゃ!と思ったときに、コピーライター養成講座に行くか、浅草の句会に行くか、という二択だったんです。

──とんでもなく極端な二択ですね(笑)。

そう。人を感動させられる切れ味のある言葉を身につけないといけない、と思って。ちょうど神社仏閣にハマっていた時期だったし、浅草に行った帰りにおいしいものも食べたいなと。それで、句会を選んで。で、その俳句の先生が国文学者の70代のおばあちゃんで、とても可愛がってくださったんです。そこで『紫式部』とか『源氏物語』、『万葉集』なんかを教えていただいて。

──それまでは興味なかったんですか?

全然(笑)。でも、その経験を通して、棘というか、ストレートな言葉にある「引っかかり」みたいなものが分かった気がしますね。『万葉集』とか『古今和歌集』とか、古来日本の良さを伝える言葉が、その句会を通して入ってきたのかも知れませんね。

──その頃は、どんな歌を歌っていたんですか?

その頃はもっとアコースティックで、古内東子さんや柴田淳さんみたいな「女心の切なさ」や「失恋」を歌っていました。私、ルーツが中国にあって。生まれは九州なんですけど、ルーツが中国にあって、両祖父母が80年以上前に日本に渡って来たんです。その影響もあって、中国の二胡とか古典楽器を聴いてすごく癒やされたり、懐かしさを覚えたことから、中国と日本の要素をミックスした音楽を作っていきたいと思うようになって、今のようなオリエンタルなサウンドになりましたね。

「友だちも、だって蘭華ちゃんは昭和だもんって」(蘭華)

──なるほど。でも、歌っている楽曲の世界観は、60代・70代くらいの深みがありますけど。

3年前にメジャーデビューしたんですけど、そこにたどり着くまでの挫折の期間がすごく長かったこともあって。仕事も恋愛も上手くいってれば、私も前向きなハッピーソングが多かったかもしれないですけど(笑)、辛い時期が長かったからこそ、支えてくれた恩師への感謝の歌とか、望郷の想いというか。もう上京して10数年経つけれど、まだ芽も出ていない。でもこのままじゃ帰れない。いつの日か、「美しく咲いてる あの花のように生きて 輝いた私を届けたくて」みたいな歌詞が出てきたんだと思うんですよ(笑)。

──まあ、苦労はいろいろとあったんでしょうけど、その苦労の種類というか。平成が終わろうというこの時代に、すごく昭和的というか。

おっしゃる通り、まさに昭和ですね(笑)。

──昭和というのは、いわゆる職業作詞家という方々が活躍されていて、その歌詞における言葉の審美眼というのが、ものすごく研ぎ澄まされていた時代でもあって。数十年経っても色褪せない言葉の強度というか。蘭華さんには、それに通じる「艶」と「深み」があるというか。

ありがとうございます。なんでしょうかね。やっぱり堪え忍ぶ間に培われた精神性なのかな(笑)。

──たとえば収録曲の『薔薇色のブルース』なんか、アレンジは明るいブルースといったタッチですが、歌詞はやっぱり昭和的というか。戦前戦後に活躍された流行歌手・渡辺はま子さんにも同じタイトルの名曲(1954年)がありましたが。

そうですね。歌詞に出てくる「横浜」「鎌倉」はカタカナですし、昭和ですよね(笑)。『ブルー・ライト・ヨコハマ』(1968年・いしだあゆみのシングル)『よこはま・たそがれ』(1971年・五木ひろしのデビュー曲)の時代ですね。そっかぁ、分かった!だから若いファンが増えないんだ。

──若いファン増やそうとしているんですか?

え、あ、30代くらいのファンの方もいたらうれしいなって。20代のファンとかも全然いないですし(笑)。お友だちに「なんで若いファンが増えないんだろう・・・」って話したら、「だって蘭華ちゃんは昭和だもん」っていう。「年配の大人たちが集いそうな音楽だ」みたいなこと言われました。

──アルバムタイトルの『悲しみにつかれたら』とかも、80年代の香りがします。

このタイトル、めちゃくちゃ気に入ってるんですよ。

──そう、それを気に入るあたりも含めて(笑)。

ああ、なるほど(笑)。ちなみに、言葉を使ったお仕事をされている立場から見たとき、歌詞のなかで「これはいいぞ」と思ったのはありました?

──タイトルからしてインパクト大な楽曲『懺悔の裏窓』にある「日銭を稼ぐ」ですかね。

あぁ、やっぱりこれか~(笑)。この曲、メロディが出てきたときに、まず情景が見えたんですよね。フランスのモンマルトルの丘あたりにある、寂れた酒場の。そこでアコーディオンを弾いている物悲しそうな初老のおじいさんが目に浮かんで。「あ、このおじいさんを主人公にして、光を当ててあげたいな」と思ったところから、詞を書いたんですよ。ちょうどその頃、私も打ちひしがれていた時期で、おじいさんと自分が被っちゃって。

──昭和40年代に、京都の祇園あたりで見られた風景ですよ(笑)。

そうですよね、やっぱり。つい先日もラジオのパーソナリティーの方に、「俺のこと歌われているのかと思ってドキっとした!」と言われて。その方は60代の男性なんですけど。こないだもインストアライブで、70代や80代の方が「初めてCD買ったのよ。今まで演歌しか聴いてなかったのに」って。

──いや、それがコンセプトとして「昭和的」であるだけなら、上っ面になってしまって、その世代の方たちに響くことは無いんでしょうけど、蘭華さんの場合、ちゃんとその世界観を血肉化していて、なおかつ、ポップスとしてのテクニカルな部分もしっかりと押さえている。

あぁ、なるほど。

──それはルーツでもある中国に関係しているのかもしれないですが、時代や国境を物差しとしない「悠久さ」とも言いますか。

そうですね、時代や国境は気にしていないですね。。良いものを取り入れて、吸収して、自分のなかで昇華して出したい、というだけですね。だから、癒やされる音楽を目指しているというより、自分の精神が落ち着くのがただそこだから、という。歌詞の世界も「静寂」をテーマにしたものが多いのかもしれない。まあ、『懺悔の裏窓』はその逆ですけど。

──お話しした印象としては、今言われた「静寂」にしても、普通なら10分、20分のことを言うのに、蘭華さんは何百年、何千年という単位でモノを見ているような気がします。

おもしろい。初めてです、そんなこと言われたの。ステキ!

──その「懐の深い」世界観こそ、蘭華さんの魅力だと思います。だからこそ、小椋桂さん、坂本冬美さん、元オフコースの鈴木康博さん、さらには服部克久先生まで! 錚々たるメンバーと音楽イベントで共演できたわけですから。

いやぁ、それはラッキーなだけです(笑)。でも、生きている間に、小椋さんが美空ひばりさんに書かれた『愛燦燦』(1986年)みたいな曲を書いてみたいですね。

(Lmaga.jp)

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