安藤裕子「結局、自分が書いた楽曲しか歌えないんだな」

今年6月、初のセルフプロデュース作品となる『雨とぱんつ』『暗雲俄かに立ち込めり』の2曲を発表した安藤裕子。実はそれまでの約1年半、音楽から離れていたという。所属していたメジャーレーベルからも独り立ち。公式サイトに綴られたのは、「私小説を描けない私小説家なんてやっぱりおかしいでしょう?」という言葉。12月15日に大阪、来年1月8日に東京でのライブを控える安藤裕子に話を訊いた。

写真/渡邊一生

「自分が書いた楽曲しか歌えないんだな、私・・・」(安藤裕子)

──公には発表されてませんでしたが、1年半休業状態だったとか。

そうです。その休んでいた理由というのが、自分を見つめる時間があまりにも減ってしまったんですよね。ここ最近の音楽のテーマが重くなりすぎて、死生観みたいなものがすごく強まっていって。その死生観に囚われすぎて、今度は軽い曲が作れなくなって。作っても、歌ってても嘘っぽくなっちゃう。やっぱり濃度の薄い音楽って、聴き手にバレますよね。

──曲調に関わらず、作り手が楽曲の世界観にのめり込んでいるか、という?

そうそう。で、『あなたが寝てる間に』(2015年)というアルバムは、その死生観からちょっと離れて、明るくやるというのがテーマだったけど、1曲1曲は丁寧に作ってはいるんだけど、どこか上の空というか。自分でも、ちょっとウソをついているような気がして。そのなかで、心の底から歌えたのが『都会の空を烏が舞う』だったんですよ。それって私の死を歌った楽曲なんですけど、そこでしか自分の言葉が出なかったんですね。

──なるほど。その後、Charaやスキマスイッチ、堀込泰行や峯田和伸らに楽曲を提供してもらう企画モノ『頂き物』(2016年)をリリースされてましたが。

ずっと一緒にやってるディレクターが、「自分で楽曲が書けないのなら、カバーアルバムを出すみたいに提供してもらった楽曲をやったらどう?」と企画してくれて。すっごい楽しかったけど、やっぱり人の楽曲だなというところに至って。1年くらい猶予をもらって自分で書いた『アメリカンリバー』も最後に収録したんだけど、なんやかんや、一番心が入ったのが自分の楽曲だったわけですよ。「あぁ。結局、自分が書いた楽曲しか歌えないんだな、私・・・」って思いつつ(苦笑)。

──シンガーソングライターの性(さが)というか。

でも、自分の曲しか歌えないと分かっても、その自分の曲が出てこない(笑)。だけどリリースの予定は決まってるという状況で。もう自分へのごまかしが耐えがたくなって、去年の春くらいから、作り手として休業状態に入ったの。ライブ活動だけは残して。そのときに、マネージャーに「リハビリで作ってみたら?」と言われて作ったのが、この『雨とぱんつ』なんですよ。で、急きょライブ会場で発売することになって、だいたい3週間くらいで作れと(笑)。

──すべての作業をその短期間で?

そう(苦笑)。だから、とってもライトタッチのもの。限られた環境や予算のなかで、今なにができるかを探るというか。そういう意味では、これまで「言葉」や「死生観」に囚われていたけど、まったくそこに触れず、音作りに没頭できて。そんなのかなり久しぶりで、すごく楽しかったんですよ。

「自分が楽しんでる姿は見せられるかな」(安藤裕子)

──確かに近年は、死生観、私小説的な部分が強く出た作品が多かったですね。ある意味、それは深刻化してきたとも言えたりして。デビュー当初はもっとたわいないことを歌っていたと思うんですよ。

そうそうそうそう。そうなんですよ。

──そういうところが安藤裕子の魅力のひとつだと思っていたので、そういう意味で、この『雨とぱんつ』はその感覚がちょっと戻ってきたのかなと。

うん。サウンドを遊ぶということですよね。元来、楽しくなければ意味はないのに、自意識の鏡がすっごい近くにあり過ぎちゃったというか。そういうところからちょっと離れて、この『雨とぱんつ』はライブ会場と通販限定のグッズのつもりで制作したんだけど、ディスクユニオンの店長さんが「そんなのもったいないから、うちで置くよ」って言ってくださって、どんどん広がっていって。それは、10年以上一緒にやってきた事務所やレコード会社、今のスタッフも含めて、みんなで得てきた信頼や友情だと思うんです。

──と同時に、レコード会社からも独り立ちしたという。

そう。空っぽのまま大人の女がステージに立って、どこに魅力があるんだって。お客さんにも、つまんねえ女だなって思われるだろうし。これまで彼らに大事に育ててもらったから、そろそろ自分で立たないといけないと。

──自分を見つめ直すことで、また新しい安藤裕子の音楽が生まれそうですね。

うん、そうですね。きっと、今までやってきたことをさらうようなことはできなくなっちゃうけど、自分が楽しんでる姿は見せられるかな。今回の『雨とぱんつ』はちょっとお遊び的な要素が強かったけど、次回はもうちょっと自分の趣味とかやりたいことを詰めて、要は自分が原盤制作ディレクター、プロデューサーになるべくやっていこうかな、と。だから今は、誰とどう組んだらいいか、人様の現場を見たりとか、エンジニアさんを調べたり、曲作りよりも人探しをしてますね。

──徐々に動き出しているのを聞いて安心しました。

ただ、だんだん自分が妖怪化してる感じがするんですよ。妖怪っぽい曲を作ってるときの方が楽しいというか。さっきの撮影した写真も、残像の方がリアリティがあるかも(笑)。

──以前もそんなこと言ってませんでした?

そうそう(笑)。アイドルか妖怪か、みたいなのが自分のなかにあって。アイドルみたいにもやりたいし、でも、歌ってて楽しいのは妖怪っぽくやってるときで。突き詰めると私、妖怪っぽいものが好きなんじゃないかって。そんなんで大丈夫かな(笑)。

──それもまた魅力のひとつですから。最後に、12月15日には大阪「森ノ宮ピロティホール」、来年1月8日には東京「なかのZERO」でライブが予定されていますが、どんな感じにしようと考えていますか?

最近は、安藤裕子の妖怪面というか、ストリングスと一緒に狂気じみたことをやっていたから、今回のライブはもう少しのほほんとしたいな、と。『雨とぱんつ』で出会った後関好宏さんと川崎太一朗さんにホーン隊として参加してもらいます。安藤裕子の楽曲では、ホーンズというのはわりとポピュラーな役割を担ってたんですけど、そういう楽曲をもう1回、再考してみたいなと。『あなたと私にできる事』は久しくやってなかったけれど、ホーンズと組むことでとても楽しみな1曲になってます。

──そのほかのメンバー構成は?

ドラムに伊藤大地くん(元SAKEROCK)、ベースに沖山優司さん、ギターに名越由貴夫さん、コーラスに酒井由里絵ちゃん、そして、キーボードの山本隆二くん。サウンドはかなりゴージャスです。特に大阪はクリスマス前だから、そういう楽曲もやりたいな。

(Lmaga.jp)

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