中田秀夫「ロマンポルノは若い作家を刺激する」

「若い作家は必ず刺激されるでしょう」(中田秀夫)

インターネットでアダルト動画を簡単に楽しめるこの時代。男性は性欲解消が第一目的なので、「絡みのパートだけ」という人が以前より多くなっただろう。3分程度のサンプル動画で事足りる状況。はたまた、ドラマ部分をカットし、特定の女優やシリーズのセックスシーンだけを集めた「総集編もの」が大量生産されているのは、そういった背景もある。しかし感動できるエロスは、登場人物の職業、心情、相手との関係性、シチュエーションなどが深ければ深いほど膨らんでいく。たとえそれが演技(仕込み)であっても、だ。

「おもしろい絡みというのは、女や男の生き様、人間としてどう生きているのか、それがラブシーンのなかからこぼれ落ちるもの」。そう語るのは、『リング』『仄暗い水の底から』『クロユリ団地』といったホラー映画で人気を集め、『L change the WorLd』『MONSTERZ モンスターズ』など娯楽大作まで手がける中田秀夫監督。1985年、中田監督は日活ロマンポルノに憧れて、「にっかつ撮影所」に入社。小沼勝監督に師事し、1988年のロマンポルノの製作終了まで携わった。

「今の映像作品はパソコンやスマホ向けになって、ショートムービー的な作品も多いです。サイズがどんどん小さくなっています。スマホで観るのが悪いとは全然思いません。でも、大きな画面とは、画面から伝わってくるものの差が出てきます。ロマンポルノの価値はそこにあります。曾根中生監督・荒井晴彦脚本の『新宿乱れ街 いくまで待って』(1977年)、小沼勝監督・大工原正泰脚本の『さすらいの恋人 眩暈』(1978年)など時代を越えてもすごいと思えるものは、街に巣食う人々の様が大画面から訴えかけてきます」(中田秀夫監督)

男も女も、あがいているからこそエロい。喜んだり、悲しんだり、嫉妬したり、そういった感情の交わりが、そのまま肉体の結びつきへ繋がる。お手軽なAVに慣れ切った世代だからこそ、ロマンポルノの濃度は逆に新鮮な興奮を得られるのではないだろうか。

「ロマンポルノは、アーティスティックな作品だけでも、神代辰巳監督、田中登監督、曾根中生監督、加藤彰監督など、すぐに50本くらい挙げられます。映画作りを志す人たちが観れば、目から鱗の作品ばかりです。『ポルノ映画でしょ?』と思っていても、真摯に作品を受け止める力があれば驚くことが多いです。45年の時を経たとは思えません。(これはロマンポルノではないのですが)田中登監督・佐治乾脚本の『妖女伝説'88』(1988年)は、現在のようにパソコンで映像が送れるなんて一般的にはあり得ない時代に、ウェブ上に生きる女を描いていました。あと神代辰巳監督・荒井晴彦脚本の『赫い髪の女』(1979年)は、『自分もこういう作品を撮ってみたい』と若い作家は必ず刺激されるでしょう。『映画を作れば、この先にもっと何かがあるんじゃないか』と可能性を抱かせるような作品です」(中田秀夫監督)

「僕はいくらでも踏み台になります」(中田秀夫)

そんな中田秀夫監督の最新作が、女性同士の純愛を描いた『ホワイトリリー』。ロマンポルノの生誕45周年を記念して、塩田明彦監督、白石和彌監督、園子温監督、行定勲監督とともに作品を撮りおろした、「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」のなかの1本だ。中田監督にとって、ロマンポルノ初監督作。気鋭の陶芸家とその弟子による女同士のディープな愛、そこに転がり込んでくる若い男。なかでも、陶芸家と弟子の主従関係がセックスシーンで入れ替わるところは、その前後のドラマを踏まえて観るとカラダがかなり熱くなる。

「Twitterで観た人の感想を読んでいると、『5本のなかでは良く言えば伝統的、悪く言えば昭和的』と書いてあって、確かにそうかも知れないと思いました。一方で、百合的な人たちには、この映画はすごく心が痛いそうです。『この映画を私は人に薦めたくありません。苦し過ぎるから。観るなら覚悟して欲しい』という人までいました。どちらが、どちらを縛っているのかという関係性に『心が痛い』そうです。でも振り返ってみれば、小沼さんもよくSとMがグルッとひっくり返る瞬間を描いていましたし、僕にもそれが受け継がれたのかもしれません」(中田秀夫監督)

とにかく、中田監督の「ロマンポルノ愛」が伝わってくる。しかし、「昔は良かった」という懐古ではない。「僕は今回のリブートプロジェクトではアンカー役。一方で、これは第一次予選だとも思っています。日活から『第2弾、第2弾と言い過ぎです』といつも怒られてしまうんですが(笑)、早く次のリブートプロジェクトが企画されて、そのファーストランナーにこのバトンを渡したい気持ちです」と、ロマンポルノの未来をにらんでいる。

「神代さん、田中さんのような孤高のアーティストがいて、一方で小沼さんように『ラブシーンこそ命だ』と言う人もいました。『桃尻娘』シリーズの小原宏裕さんのようなヒット監督もいて、百花繚乱でした。でも今は、僕を含めて5人だけです。ただ、このプロジェクトがいずれ、かつてのロマンポルノのように映画監督の登竜門となり、ものすごい新人が現れるかもしれません。20代が、(ベルナルド・ベルトルッチ監督の)『ラスト・タンゴ・イン・パリ』(1972年)を上回るようなロマンポルノを生みだすんじゃないかと、そういう夢想をします。それならば僕はいくらでも踏み台になります。しかし、老兵は死なずだとも思っています。2021年の50周年記念には、僕もまたカムバックし、「若造よ、どけ」と言って撮りたいです。そのときにはほぼ還暦なんですが、還暦ロマンポルノをやります(笑)」(中田秀夫監督)

取材・文/田辺ユウキ

(Lmaga.jp)

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