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佐野元春「シェアすべきことがある」

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シンガーソングライターの佐野元春がキュレーターとなって気鋭のミュージシャンを紹介してきた伝説のオムニバスライブ『THIS!』(1996年~98年)。当時、デビューして間もないDragon Ashやエレファントカシマシ、フィッシュマンズや山崎まさよし、UAやCoccoらをフックアップしてきたが、昨年8月に東京で18年ぶりに復活。そして、大阪でもついに初開催されることに。発起人である佐野に話を訊いた。

「オルタナティブなかたちをもう一度提案し直したい」(佐野元春)

──佐野さんが声を掛けて始まったオムニバスライブ『THIS!』ですが、東京で1996年から3年間にわたって開催されました。その出演者を見ると、若い世代との邂逅を目指したように思えるのですが、どんな想いがあったんですか?

日本で初めてのロックフェスがおこなわれたのが1997年。『フジロックフェスティバル』ですよね。その1年前に先駆けて、こうした集合型のロックイベントをやった。僕は彼らより少し上の世代なんだけど、90年代になってオルタナティブな世代が素晴らしい音楽を作り出している、そういう印象があった。で、僕としてはその優れたバンドやシンガーソングライターを一堂に集めて、ロックフェスのようなものをやったら素敵じゃないかと。そういう発想で、レコード会社やマネージメントに話しかけて実現したのが、96年の『THIS!』でしたね。

──レーベルの垣根を超えて、という意味でも当時は斬新でした。

そうなんです。当時は各レーベル、マネージメントの壁が厚く、なかなかそういうイベントが開催しづらい状況だったんですね。そこはミュージシャンである僕が声を掛けたというところで、みなさん心の垣根を解いてくれて実現したという、稀なイベントでしたね。

──佐野さん自身が若いミュージシャンから刺激を受けたいというのも、目的のひとつとしてあったんですか?

それはないです。若いアーティストから刺激を受けるという感覚は、まったくないですね。むしろ、方向性を同じとするミュージシャンやバンドが一堂に集まり、1+1が10にも20にもなるような、そういう化学反応が起こる場を作ってみたい。そういう気持ちが強かった。

──昨年、東京で18年ぶりに開催された『THIS!』ですが、その空白期間や開催に至った経緯はどんな感じだったのでしょう。

まず、自分のことが忙しかったというのがひとつ。それから90年代以降、ロックフェスというのが一般的になりましたよね。各地で楽しいロックフェスがたくさん開催されるのはいいんですけども、まあ、批評するわけではないけども、質が均一化している。どこのロックフェスも、だいたい出演者が似たり寄ったりで、差別化ができなくなってきている。それで、集合型のロックイベントの、新しいかたち、オルタナティブなかたちというのをもう一度提案し直したいと。

──「オルタナティブ」というのは、今回の大阪公演のタイトル(『THIS ! オルタナティブ 2017』)にもなっていますが、佐野さんがデビューした80年代から、オルタナティブという言葉は常々あったと思うんですが、その意味合いというのは変わってきましたか?

「多くの人たちが言うところのメインストリーム、それは本当のメインストリームか?」という問いかけですね。もしかしたら、それを伝えているメディアに見間違いがあるのではないか、誤解があるのではないか、という問い直しですよね。

──「多くの人たち」というのは、一般のリスナーであったり、コンサートやライブに来られるお客さんだったり、ミュージシャン自身にとってもですか?

一般という定義が少し難しいですけどね、文化に対して積極的でない人々、音楽なんか無くなって、別に生きていけるよって人たち。ロックンロールのなかに政治なんて持ち込まなくていい、と言ってる人たち。そういう人たちだね。

──その『THIS!』が、ようやく大阪でも観ることができるわけで。

これまで東京に限った開催で、僕はかねてからほかの都市部でも開催してみたいと思っていた。特に大阪でやりたいと。今回、大阪の関係者の協力を得て、初めて大阪で、しかも「フェスティバルホール」という最高のベニューでできるので。そして、出演するミュージシャンはそれぞれ素晴らしいサウンドを持っているけど、そのサウンドがよりオーディエンスに良く届くように、サウンドのプロデュースも僕がやっていくつもりです。

──今回の大阪公演には、Gotch & The Good New Times、サニーデイ・サービス、カーネーション、中村一義、七尾旅人という面々がラインアップされています。この人選はどういう感じだったんですか?

どの出演者も、80年代、90年代からキャリアをスタートさせて、独立心をもってクリエイティビティを絶やさず、今でも多くの聴衆を惹きつけている、そういうタフなバンドであり、ソングライターですね。一番大事なのは、クリエイティビティを絶やさず、自分をぶらさず、今日まで続けてきたことの強さですよね。タフさというか。そこはもっと讃えられていいと思うんです。だから一度、この『THIS! オルタナティブ』という名のもとに集まってもらい、彼らをもっと賞賛しようと。そういう意味合いも、個人的にはあります。



「年代は違うけれども、僕や彼らというのは同士」(佐野元春)

──なるほど。昔と比べると音楽活動のスパンが短くなってきた時代のなか、どの出演者もまさにタフに活動を続けられ、自分たちが信じている、表現したい音楽を貫き通していますね。

途中で挫折してしまいがちな多くのバンドやソングライターは、ナイーブ過ぎると思うんですね。やはり現実との戦いのなかでサバイブしていくわけですから。そうした意味では、今回出てくれる彼らの一番重要なところは、ずっと独立心をもってやってきているところですね。インディペンデントな精神で、ここまでやり抜いてきている。大きな資本に守られてきているわけでもないし、メディアに守られてきているわけでもない。やっぱり独立心をもって、自分の聞き手は自分で獲得している。僕はそこに共鳴します。

──出演者のひとりである七尾旅人さんに以前インタビューさせていただいたとき、印象的だったのが、ライブに赤ん坊を連れてきて欲しいと。赤ん坊の泣き声などはライブの進行などの妨げになるからか、今は入場制限のあるコンサートがすごく増えているんですが、七尾さんはむしろ連れてきて欲しい。赤ん坊の泣き声も一緒にセッションしたい、と。

そう。それが彼の、芸術の基本的なアティチュード。青空劇場です、彼は。どこに行っても、自分からそこの場に行って、そして、そこの空気を全部含めてひとつのアートにできるよという、そういう自信からですよね。それは本当に素晴らしいことだし、タフじゃないとそういう思い切ったことはできない。

──佐野さん自身も、まさにそういった「タフ」な活動をずっとされてきましたよね。

だから共鳴できるんですね。世代的には弟世代かもしれないけれど、しかし、こういうクリエイティビティの世界では年齢というのは、それほど大事な意味はない。いかに、その時代に輝くクリエイティビティ、新しいアイディアを持っているかどうか。そこですね。年代は違うけれども、僕や彼らというのは「同士」である。そう思っています。

「僕はナイーブに見せかけているけど、実は実存主義だから」(佐野元春)

──自分たちが表現したいものを作るにあたって、簡単に言えば楽曲をリリースする方法であったり、パッケージであったり、80年代以降はその移り変わりが激しかったと思うんですが、佐野さんはそのあたりをどういう風に捉えて、どういう活動をしてきたんですか?

意外と僕なんかは、ナイーブに見られるかもしれないけど、それじゃやっていけないですよね。たとえば、クリエイティビティをしっかり保ちながら、いかに多くの聴き手にそれを渡していくか。それは、メディアの問題もあるし。いろいろと課題というのは横たわるわけだけども、それをクリアしつつ、そして、アーティストである自分を前進させていく。ここはすごくね、タフじゃないとやっていけない。いわゆる実存主義じゃないとやっていけない。僕はナイーブに見せかけているけど、実は実存主義だから。

──97年、98年の『THIS!』では当時では先進的だったインターネット中継もされていましたし、2015年のアルバム『BLOOD MOON』では、CDやアナログとともにUSBでハイレゾ音源を出したりしてますね。これは面白かったです。

そういう活動を着目してくれる方がいるからこそ、僕も常に冒険的でいられる。やはり、僕がどんないい楽曲を書いたとしても、それをいいねと言ってくれる人がいなければ。僕が作ったものに輝きを与えてくれるのは、常に聴き手ですから。やはり、良き聴き手を求めていく。しかも、自分たちから求めていくということは必要かなと。今回のライブでは、ブレヒト(ドイツの戯曲家)の言葉「良き読者を捕まえろ」を引用してね。僕は10代のとき、それを読んで感銘したんですけども、それをもじってですね、「良き聴き手を捕まえろ」と。これは今回参加してくれるバンドやソングライターへのメッセージでもあります。

──その「良き聴き手」ですが、今は音楽の接し方、聴き方がかつてと比べてもだいぶ変わってきたと思うんですね。佐野さん自身、「良き聴き手」に届ける難しさに対して、さまざまな試行錯誤を繰り返されてきたと思うのですが。

そのへんは正直言って、難しくは考えてない。昔から変わってないものは何か、といつも思うから。昔から変わってないものは、僕たちソングライターは良いメロディを書き、良いフックを持ったリリックを書き、それをみんなの前で披露して、みんなと楽しく歌って踊る。ダンスする、ということですよね。野暮ったくいるな、クールでいろと。そこを押さえておけば、難しいことは考えなくて済む。

──そのあたりのスタンスって、今回出演されるミュージシャンにも通じますよね。まさにタフにサバイブしてきている。

そう。その力の源泉ってどこから来るのかなといつも思うんだけど、やっぱりロックンロール音楽が大好きなんだろうね。ロックをひとつの表現フォーマットと難しく解釈するとしたら、この表現フォーマットが好きなんだ、信じているという連中なんだろうね。その気持ちがエネルギーになり、ここまで彼らを引っ張ってきてるんじゃないか、と。それは僕も同じです。

──なるほど。それと、「良き聴き手」がミュージシャン自身に与える影響というのも、佐野さん自身が一番ご存じだと思うんですが。

「良き聴き手」というのは平たく言うと、ホントに心から胸を開ける友人、友だち探しです。探すということは、つまり自分たちから出向いていって、彼らとの出会いの可能性を捨てないということですね。だから、ライブというものがすごく大事だと言うことも出来る。彼らは本当にライブを大事にしています。



「自分の音楽を守るため、なんて気持ちはさらさらない」(佐野元春)

──佐野さんもすごくライブを大事にされています。今さらな質問ですが、ライブとは、ミュージシャンにとってどういうものなんですか?

ライブは、ミュージシャンの一番の本懐です。レコードなんか出さなくても、良いライブをやって食っていけるんだったら、それでいいっていうのがミュージシャンです。ご機嫌なライブができなければ、ミュージシャンじゃない。また別の名前を付けた方がいい。レコードなんて誰にでもできる。今はソフトウェアとハードウェアを使えば、ご機嫌なモータウンサウンドから現代的な音楽まで、誰だって作れる。でも、そこじゃない。それを超えて、ライブで生のコミュニケーションを人々と取っていく。その先に、音楽にどんな可能性が開かれるか。それを試していく旅路なんですね、僕らがやっていることは。

──それらは自らの音楽表現を守っていく、ということでもあるのですか?

自分の音楽を守るため、なんて気持ちはさらさらない。

──ない?

むしろ自分の音楽なんて、無くなっていいと思ってる。もし、日本語によるロックンロール表現というものが豊かに、良いかたちで栄えて、それを必要としている人たちに満遍なく行き渡るんだったなら、僕なんて何もしなくたっていいと思ってる。そうした本当の意味での文化に、少しでも貢献できたらいいなという思いはちょっとだけある。真面目なことを言えばね。(佐野が出演・企画したEテレの)『ザ・ソングライターズ』にしてもそうだし、僕のラジオ番組もそうだし、この『THIS!』イベントもそうだし。自分を超えたところに全部ある。自分のことはさておいて。そういう気持ちの方が強い。

──それは佐野さんが、そういう音楽を通しての感動や喜びを体験・享受したからこその思いなんですか?

もっと単純な話だよね。世の中にはシェアすべきことがもっとたくさんある。くだらないことばっかりシェアしてんじゃねえよ、という話です。

──シェアという意味では、インフラ的には昔よりは今の方がシェアしやすい時代だと思うんですが。

そこはね、本当にシェアしやすくなっているか、僕は懐疑的でね。ただ、昔と今を比べてもしょうがないの。昔にはもう戻れないんだから。良いスピリットや良い音楽、良いアイデアを世代を超えて、どういう風に共有していくか。それはもう試行錯誤してやっていくしかない。この『THIS! オルタナティブ』は、その顕れの一環なんです。

──なぜ佐野さんは、そんなに前を向いていられるんですか?かれこれ35年以上にわたって。

情熱があるんだろうね。ロックンロール音楽が大好きという情熱が、おかげさまで変わらない。12歳のとき、ザ・フーのピート・タウンゼントがストラトキャスターを持ってジャンプしている写真を見た日から、ここまで。おんなじです。

──その常に前進していく姿勢、かつてのレーベル設立や雑誌の立ち上げなどもですが、それがファンはもちろん、ミュージシャンにとっても佐野さんから目が離せないほど面白くて。30~40代の後追いのファンが追い切れないほど前に前に進んでいく。

いっぱいいろんなことをやってるからね(笑)。それを面白がってくれて、本当に僕はうれしいですね。そこを面白がってくださいと、逆に言いたいくらいだから。うれしいです。

「ノスタルジー音楽をやるつもりは僕は毛頭無い」(佐野元春)

──35年以上も活動していると、どこかでひと区切りというか、ちょっと後ろをふり返ってみたりはないんでしょうか? 往年のファンに向けられたライブもたまにありますが、それよりも前を向いてることの方が圧倒的に多いですよね。

そうですね。ノスタルジーというのは、音楽が表現できる良い情感ではあるんだけども、やっぱりそれだけでは僕はつまらない。ノスタルジーを求めて僕のコンサートに来てくれる古くからのファンにはもちろんそれを感じてもらいますけども、僕は常に15歳から25歳の聴き手に、ひょっとしたら出会うことはないかもしれないけど、彼らに自分の新しい音楽を聴いてもらいたい。そう思ってる。

──その15歳から25歳というのは、やはり感受性ですか?

そうだね。自分も過ぎた世代だから分かるんですけど、多感な頃に観た映画や読んだ本、聴いた音楽ですよね。触れたいろんな出来事、そこで得たものがひとつの尺度となって、それから先のいろんな物事を測っていく物差しになるのではないかと思うんです。だからそうした感受性の強い世代に、今の僕のアートをぶつけて、なにかを感じて欲しいというのは、欲望としてあります。

──そこは音楽活動のなかで、意識せざる得ない部分でもあると。

そう。僕はね、クラシックやジャズをやってるんじゃない。僕が作っているのは、ロックンロール音楽だと。ロックンロール音楽というのは常にビビッドで、今にフックしていく音楽ですから、古い世代のためのノスタルジー音楽をやるつもりは僕は毛頭無い。やはり15歳から25歳の彼らに、なにかしらアピールする、なにかしら感じてもらえるということを、たとえそれが実現できなくても、それをイメージしながらやってる、うん。

──それはチラッと噂で聞いた、ニューアルバムでも?

そうです。今年は3枚新作を出したいと思ってるんですね。正確に言うと、5月31日に2枚組ライブアルバム『佐野元春 & ザ・コヨーテ・グランド・ロッケストラ』を、7月にTHE COYOTE BANDとの新作アルバム。そして、11月にThe Hobo King Bandとのセルフカバー、これらをドロップしようと。特に7月にリリースするTHE COYOTE BANDとの新作アルバムは、時間をかけてじっくりいいアルバムにしようと。結成して11年、もう11年経ったのかとも思うんですけども、これまでスタジオアルバムを3枚出してきてます。『COYOTE』『ZOOEY』『BLOOD MOON』。これに続く4作目ということで、真価が問われる4作目ですから、ここで思いっきり新機軸のTHE COYOTE BANDサウンドをぶつけていきたいと思っています。

──なるほど、ライブとともに、そちらも楽しみにしています。先ほどからお話をお伺いしていると、決して振りかえるタイプではないと思うんですが、佐野さんがこれまで歩んでこられた35年というキャリアの重み、その結果、先に見えているものがあるのであれば、最後にお聞きできればと思うんですが。

そうですね。まず、30年の重みは自分では感じないんですね。むしろやってきたことは、忘却の彼方というか。アニバーサリーイヤーには、自分がどんな仕事をしてきたのかというのをファンのためにも調べないといけないので、振りかえることはあるけれども、それ以外では振りかえる必要がない。前に、前に向かっている感じですよね。それと、未来のことが見えてるかというと、それも予言者ではないので見えてないけれども、感覚的にはこういうはずなのに、なんでこうじゃないんだろう?というのがずっと続いているというか。自分がイメージするその地平線に向かって、なんていうか、ポンと膝を叩けるところまで、いろいろやっていくしかないんだ。そういう感じ、早く膝を打ちたいよね(笑)。


(エルマガジン)

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