グラスワンダーを育てた男 “名門・尾形3代目”尾形充弘の軌跡【4】

 日本の競馬界に大きな足跡を残した尾形藤吉を祖父に持つ尾形充弘元調教師(70)が、2月いっぱいで定年を迎え35年以上におよぶ調教師生活に別れを告げた。祖父・藤吉、父・盛次(元調教師)の流れを引き継ぐ“尾形3代目”として競馬の盛り上げに貢献し、日本調教師会の会長を務めるなど要職を歴任。3月からはデイリースポーツ『うま屋』の“スーパーバイザー”に就任する大物ホースマンの軌跡に迫った。

 G1を超えるG2として未だに語り継がれるレースがある。1998年10月11日に東京競馬場で行われた毎日王冠だ。98年に入って5連勝で宝塚記念を制した希代の快速馬サイレンススズカに、デビューから4連勝のグラスワンダーと、同じく5連勝のエルコンドルパサーの2頭の外国産馬が激突する。まさにドリームマッチだ。

 前年の朝日杯3歳S(当時)を快勝したグラスワンダーだったが、よもやの骨折のアクシデントで無念のリタイア。この毎日王冠が10カ月ぶりの復帰戦だった。ここで尾形充弘はある決断を迫られる。グラスワンダーの主戦だった的場均は、ライバルであるエルコンドルパサーの5戦全てに騎乗していた。まだ外国産馬はクラシックにも天皇賞にも出られない時代。グラスワンダーが休養している間に、NHKマイルCを勝ったエルコンドルパサーと路線が重なるのは避けられない状況だった。

 夏の札幌で尾形は的場に「自分が乗りたいと思った方を選べばいい」と選択を委ねた。休み明けとなるグラスワンダーは決して万全の状態ではないことは的場にも伝えていた。このとき尾形は“恐らく的場はエルコンドルパサーを選ぶだろう。グラスワンダーと新しくコンビを組む騎手を探さないといけないな”と想定していた。ところが、的場は「グラスワンダーに乗ります」と即答した。これでコンビ継続が決定。エルコンドルパサーには蛯名が新しいパートナーに選ばれた。

 ついに3強が激突するレース当日。徹夜組が1000人近く並び、東京競馬場には13万3000人超の観衆が詰めかけた。的場には「上手な競馬はしなくていい。サイレンススズカを負かしにいくんだ」と指示を出した。2番人気に支持されたグラスワンダーは、残り800メートルからポジションを上げて逃げるサイレンススズカの直後に迫った。そこから突き放されて5着に敗れたものの、トップホースによる力勝負に大観衆は熱狂した。

 グラスワンダーは有馬記念2連覇、スペシャルウィークとの一騎打ちとなった99年の宝塚記念を3馬身差で快勝するなど、数々の名勝負を残して00年の宝塚記念を最後に引退。栗毛の怪物としてターフに大きな足跡をしるした。(文中敬称略)

 ◆尾形充弘(おがた・みつひろ) 1947(昭和22)年9月27日生まれ、大阪府出身。82年3月に調教師免許を取得し、同年10月に開業。18年2月に定年により引退。JRA通算800勝(うちG1・4勝を含む重賞23勝)。10~12年には日本調教師会の会長を務めた。調教師引退を機に、デイリー競馬『うま屋』のスーパーバイザーに就任。

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