グラスワンダーを育てた男 “名門・尾形3代目”尾形充弘の軌跡【完】

 日本の競馬界に大きな足跡を残した尾形藤吉を祖父に持つ尾形充弘元調教師(70)が、2月いっぱいで定年を迎え35年以上におよぶ調教師生活に別れを告げた。祖父・藤吉、父・盛次(元調教師)の流れを引き継ぐ“尾形3代目”として競馬の盛り上げに貢献し、日本調教師会の会長を務めるなど要職を歴任。3月からはデイリースポーツ『うま屋』の“スーパーバイザー”に就任する大物ホースマンの軌跡に迫った。

 2月いっぱいで調教師を引退。競馬の最前線の現場を離れた尾形充弘だが、いまも牧場に足を運んだり、請われてセリに出向くなど多忙な日々を送っている。「朝の調教に行かなくなったくらいで、(引退したことは)正直まだピンとこないね」と、なかなか実感が湧いてこないという。

 祖父・藤吉から父・盛次へと受け継がれてきた厩舎を、無事に定年まで完遂することができた満足感はある。ただ、尾形藤吉の孫という周囲の重圧を感じながら、一生懸命に日々を駆け抜けてきた。「やはり“尾形”という名前は私にとって大きな看板でした」と重い十字架を背負ってきたことは否定しない。それでも、名伯楽であった藤吉の薫陶を受けてきた自負がある限り、競馬の世界でやれることは全て引き受けてきたつもりだ。

 10~12年には日本調教師会の会長を務め、労務問題をはじめ多くの課題の対応にあたった。今でこそJRAは売り上げ面では順調に推移しているが、戦前から戦中にかけては馬券が発売できなくなった苦難の時代もあった。そんな厳しい時代を乗り越えられたのも、祖父をはじめ先人たちの苦労があって今があることを決して忘れない。

 競馬において馬主の存在が重要なことは間違いない。ただ、現場の最前線で指揮を執る調教師が果たす役割が大きいことは確かだ。「調教師がサラリーマンになってしまっていないか?時代とともに変わってきたこともあるけど、我々は競馬のスペシャリストとしての矜持(きょうじ)、プライドを持ち続けなければいけない」ときっぱり言い切る。強い馬をつくるためにトレセンの施設を充実させ、騎手をはじめ若い人材を育てるために確固たるシステムを構築したい。まだまだ取り組むべき課題は多いと感じている。

 少子高齢化社会が進んでいく中で、競馬が魅力ある産業として栄えていくために、立場は変わっても提言していくつもりだ。尾形の流儀は途絶えることなく続いていく。偉大なDNAを受け継いだホースマンとしての姿勢がぶれることはない。

(文中敬称略)

 ◆尾形充弘(おがた・みつひろ) 1947(昭和22)年9月27日生まれ、大阪府出身。82年3月に調教師免許を取得し、同年10月に開業。18年2月に定年により引退。JRA通算800勝(うちG1・4勝を含む重賞23勝)。10~12年には日本調教師会の会長を務めた。調教師引退を機に、デイリー競馬『うま屋』のスーパーバイザーに就任。

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