キダ・タロー 「有馬兵衛の向陽閣」裏話…オリジナル版は3番まであり長さ約4分
作曲家のキダ・タロー氏(86)は“浪花のモーツァルト”として幅広い世代から親しまれている。関西人ならモーツァルトの顔は浮かばなくてもキダ氏の顔は浮かぶはず。「プロポーズ大作戦」や「かに道楽」など作曲数はおよそ3000。ABC「探偵!ナイトスクープ」で最高顧問も務めるなど、活動の幅は広がりこそすれ狭まらない。キダ氏にCM曲制作秘話を語ってもらった。
キダ氏の楽曲を集めた3枚組CD「キダ・タローのほんまにすべて」には「有馬兵衛の向陽閣」のCMソングが収録されている。長さ3・8秒。テレビで流れているのと同じバージョンだ。しかし、CDに付属した楽曲解説には本来は3番まであると記されている。
「そうです。3番まであります。本来の長さは3分半から4分はあったと思います。放送するにあたって1曲まるまる放送したらお金めっちゃかかりますやん。一番短い5秒以内にして、それを100回放送したほうがフルコーラスの曲を10回やるよりもはるかに効率がいいわけです」
それであの短さに。原曲を聴きたいものです。
「それが無いんです。こんな性格ですからね…。スタジオに楽譜を置いたままにして保存するということをまったくしてこなかった。あのCDを制作するにあたって原曲の行方を探してもらったんです。けれども有馬兵衛も無い。有馬兵衛の代理店もつぶれてしまって分からない。放送局にも無い。だれも分からない」
もったいないです。
「今、出てきたらネタになりますね。当時はいっぱい書いた曲のひとつですから残るとは思ってなかった」
この音楽が長く放送されるとは思っていなかったと。
「曲ってね、例えば歌謡曲はひとつの芸術作品として残ります。コマーシャルソングというのは用途が違いますでしょ。いかにその会社を皆さんにPRするかがより大事なことです。せやから歌謡曲を作るのとコマーシャルソングを作るのは手法が違うんです。例えば、かに道楽やったら『とーれとーれピーチピチ』のところがポイントです。ここをいかに面白いメロディーにするか。コマーシャルソングというのは、しゃれっ気のあるポイントが必ずひとつある。歌謡曲はそんなにハッキリしたポイントはなくて、もっとふわっとしてます」
作曲者が歌ってくれてちょっとうれしかった。