ある日突然、所属事務所がなくなった。知らなかったのは私だけ？

　オフィスに顔を出すとバタバタとダンボールに書類やら私物やらスタッフたちが詰め込んでいる。異様な風景に「何してるの？」と聞くと「会社がなくなったのよ」……。はっ？

　どうやら解散するらしい。マジかよ！！

　タレントはみんなそれぞれマネージャーと組んで、新しい準備はできていたらしい。私ひとり放り出されたのだ。

　しゃあないとりあえず、今入っている仕事先に連絡しよう。次の日から個人事務所が始まった。

　経理は家族が担当してくれた。あとの事は自分でやるしかない。人を頼む経費なんてなかった。仕事の受注は声を変えて「ハイ！オフィス大場でございます。いつも大場がお世話になっております…」。

　その当時の制作会社の皆さま、ごめんなさい。電話の声はマネージャーではなく、私、本人でした。

　スケジュール切りから交通チケット手配、衣装のリースや返却、夜中の事務処理、ひとりで寝ずに何役もこなした。どの作業をとっても大変な仕事だ。例えばスタイリストさん。シチュエーションに合わせた服、くつ、小物などをコーディネートして、タイアップ先にお借りしに。フィッティング、サイズが合わなければ、復元できる範囲で手直し、装飾、使用後の洗濯やクリーニングだしやタグ戻し、お借りした時と同じ状態にしてお返し、大きなバッグの中にはギッシリ、相当な重量だ。

　夜中の事務処理はきつかったなぁ。経理で生きてきた父は、１円でも計算が合わないと、合うまで一晩中ファクスのやり取り。鉛筆１本買うのに稟議（りんぎ）書が必要だった。タクシーを使った場合は、理由とどこからどこまで乗車したか区間の記入。車があった時には毎日、走行距離メーターの記入。まぁ仕事としては当たり前の事なのですが、準備から演技から事務処理まで私ひとりですからね、いい経験をさせていただきました。

　雑用なんでもできますよ、やりますよ。演技から雑用までこなす女優大場久美子、一家にひとりいかがですか？