映画人はコロナに負けない 逆風を追い風に…入江悠監督 自主製作に挑戦
新型コロナウイルス禍で多くの映画製作が中止や延期に追い込まれる中、映画「サイタマノラッパー」3部作などで知られる入江悠監督(40)が逆境を利用して、題材に制約がない自主映画に挑んでいる。クラウドファンディング(CF)と自腹で費用を賄い、裏方には仕事を失った映画人や映画を志す学生ボランティアが集結。監督は自身を育ててくれたミニシアターに恩返しをと、来夏にも各地で上映を目指す。
「本番いきまーす」「窓閉めお願いしまーす」。今月6日、埼玉県北部の民家で新作「シュシュシュの娘(こ)」の撮影が進んでいた。1カットを撮る度に窓を開け換気を徹底。マスク姿の学生がベテランスタッフの指示を受けて廊下を走り回った。
映画は郊外の町を舞台に、女優・福田沙紀(30)が演じる25歳の女性が、行政にはびこる不正や闇と闘う姿を描く。入江監督は、コロナ禍で商業映画と連続ドラマの企画が頓挫し「目標がなくなりぽっかり時間が空いてしまった」と言う。6月、似た境遇の人は他にもいるはずだと、温めていたアイデアで脚本を執筆。出演者を公募すると2500人超の応募があった。
福田は「コロナ禍で苦しい日が続き、役者の仕事をいったん捨てる覚悟でいた時に、この企画に出合った」と語る。大手芸能事務所オスカープロモーションを8月31日付で退所し、これがフリー1作目。自主映画出演は初めてだ。
製作陣は約30人。半数は映画の現場経験がない“素人”で、カチンコの鳴らし方を覚えるところからスタートした。専門の美術スタッフがいないなど異例ずくめだが、入江監督は「ゲリラ的な撮影もできるし、自主映画ならではのいいところはある」と言う。
入江監督は自主映画出身で、2009年の「SR サイタマノラッパー」宣伝時は各地のミニシアターを巡回した。「無名だった自分を応援してくれた恩返しがしたい」。客足が戻らず困窮するミニシアターを満席にするのが目標の一つだ。
「正解のない時代に、映画作りの新たなスタイルを示すことができたら。見た人が前向きになれる痛快な作品です」。CFは目標の1千万円を突破したが、引き続き、インターネットの「モーションギャラリー」を通じ29日まで支援を募る。