雪の新宿、客席をどよめかせた歌声 左とん平さんを悼む
1970年代のヒットドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」などで人気を博した、俳優の左とん平(ひだり・とんぺい、本名肥田木通弘=ひだき・みちひろ)さんが、24日午後3時57分に心不全のため、都内の病院で亡くなったことが25日、分かった。80歳。左さんは昨年6月に急性心筋梗塞で入院し、闘病中だった。葬儀は近親者のみで執り行い、後日、お別れの会を開催予定。
昭和のお茶の間から愛された実力派バイプレーヤーが旅立った。
「無用庵隠居修業で昨年3月京都ロケが最後のテレビ作品だったと思う。80歳なのにロケの休みの日は朝からゴルフ、夕方から深夜まで麻雀、翌日は朝から撮影…。まあ若いときと同じ遊びをやっていた。現場では一番大きな声を出す。『ちょこちょこした芝居なんか嫌だよな』。これが師匠との最後の芝居。お互いアドリブやって、うん、楽しかった」
電話の向こうで元気のない声は“テツ、テツ”と可愛がってもらった俳優・渡辺哲。
私がとん平さんに会ったのは、何年前だったか、雪の新宿、びちょびちょの日。新宿コマ劇場が幕を下ろす最後の舞台『星屑の町~新宿歌舞伎町篇』(作・演出 水谷龍二)、メインゲストは前川清。ヒット曲を数曲歌いまくった後、間を置いて舞台の袖に立ったとん平さんは、『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』。ゆるやかに優しく、裏も表も知り尽くしたどうしようもない男の頭をつる~っと撫でるように歌った。
♪仲間はみんなおなじすいかをぬすんだ。
仲間はみんなおなじ女にだかれた。
仲間はみんなおなじ汽車にのった。
客席は静まり返った。とん平さんが幕の裏に消えるか消えないかの時、ドドッ~と拍手とどよめきが起こった。
舞台がはねた後、渡辺哲、でんでん、ラサール石井たちと裏街でしこたま飲んだ。何を話したのか?忘れちまったよ。
とん平師匠、今度はそちらの浅草での舞台、楽しみにしております。(デイリースポーツOB・坂本昌昭)