「平成の猛牛」元幕内豊響 涙の引退会見「母親に恩返ししたい気持ちだけだった」
大相撲の元幕内豊響(36)=境川=が9日、リモートで引退会見を行った。今後は山科親方として後進を指導する。約16年のプロ人生に胸を張り「母親に迷惑ばかりかけた。恩返ししたい気持ちだけだった。丈夫な体に生んでもらい感謝している」と、涙ながらに語った。
山口県豊浦町出身。2005年初場所で初土俵。2007年名古屋場所で新入幕を果たした。身長185センチ、190キロ近い体で突き押しが武器。「平成の猛牛」と呼ばれ、最高位は東前頭2枚目。金星1つ、敢闘賞に3回輝いた。
不整脈に苦しみ、2018年春場所で幕下を陥落。何度も引退を決意したが、周囲の応援もあり、3年、もがき続けた。妻、子供に相撲を取る父の勇姿を刻みたかった。
思い出の一番は2012年夏場所、横綱白鵬を倒し、初金星をつかんだ一番。土俵下で審判の境川親方(元小結両国)が見ており、目が合った時に、涙があふれた。
「金星を取れるなんて思ってなかった。師匠の目の前で勝ち名乗りを受けてうれしかった」と振り返った。
膝、肩をケガ。中でも網膜剥離になった際は失明の恐怖があった。それでも、持ち前の頭からぶちかます押し相撲一本を貫いた。
「押し相撲一つで、そこだけを磨いてやってきた。目が一番怖かったけど慣れるしかない。怖がらず頭からいきました。押しだけで上がってきた。こだわりがあった」と、プライドがあった。
会見に同席した師匠も「立ち合いの変化を1回もしていない。大きな体で変化は見苦しいというのがあったと思う。立派だった。平成の猛牛というニックネームをもらった。今度は令和の猛牛を育ててもらいたい」とエールを送った。
豊響も「(師匠に)付いてきて人生が代わった。師匠に教わった押し一本を最後まで貫けた。境川部屋の力士として全力で土俵に立てて幸せだった」と、かみしめた。
指導者としても真っ向勝負。「正々堂々と真っすぐな気持ちの強い力士を育てたい。(令和の猛牛を)育ててみたい」と意欲をにじませた。