長谷川穂積氏バドミントンに挑戦!“金の卵”中1・神尾選手との対戦で学んだ魅力とは

 デイリースポーツボクシング評論「拳心論」でおなじみの元世界3階級制覇王者、長谷川穂積氏(39)が体を張る挑戦シリーズ。今回は、東京五輪の金メダル候補でもあるバドミントンを本格的に体験した。強豪、四天王寺中(大阪市)を訪ね、日本バドミントン協会のジュニアナショナルチーム(U-16)に名を連ねる中学1年生の神尾朱理(あかり、12)と対戦。「コートの上の格闘技」と呼ばれる競技で、チャンプが“ダウン”を喫しながら学んだ競技の魅力とは-。

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 ジュニアの日本代表として小学6年の時に国際大会で8強入りするなど、金の卵として期待される神尾。今春親元を離れて、3年連続で全国大会4強入り(準優勝2度)の強豪、四天王寺中へ入学した。今年はコロナ禍で試合機会に恵まれないが、寮生活を送りながら練習に励んでいる。

 藤原監督によると、高い対応力が武器で「普段はおとなしいが、バドミントンになると変わる」と言う。普段はアイドルグループ「TWICEが好き」という中学1年生。将来の夢は「五輪での金メダル」と明確で、長谷川氏が持参した世界王者のベルトにも目を輝かせていた。

 自信は十分あった。バドミントンは家族と遊びでやった程度だが、以前からボクシングに近い競技だと思っていた。最初の構えも似ているし、フットワークには自信がある。

 “オグシオ”コンビの小椋久美子さんらが卒業生にいる名門、四天王寺中の藤原英佳監督(51)に、まず基本を学んだ。うれしいことにサウスポーの僕に「左利きは有利なんです」と教えてくれた。シャトルの構造上、左利きの方が回転がかかるそうだ。なるほど、桃田賢斗選手も左利き。ますますやる気が出てきた。

 藤原監督に相手をしてもらい、ラリーをしながらコツを覚える。しかし、打ちやすい位置なら返せるが、肩口やネット際など打ちづらい位置になると対応が難しい。コースを狙ってど真ん中に行ったりシャトルを地面に打ち付けてしまったり。打つ力の入れ具合も難しい。自分の娘と同世代の女子中学生に見られているのは、かなり恥ずかしかったが、監督から「リストを利かせて」などと助言を受けて、ようやく形になってきた。

 いよいよ神尾選手へ挑戦する。親元を離れて大阪に来た中学1年生。あどけない笑顔に自分の娘を思い「毎日ご両親に電話するんだよ」とつい親心も…。でも、甘かった。ラケットを持つと別人だ。

 最初は通常ルールで対戦。でも、スマッシュを打たれると手も足も出ない。世界トップなら時速400キロを超えるというバドミントンのスマッシュは、中学生でも迫力がある。ただ、微動だにできないわけじゃない。追いつけそうで追いつけない。フットワークは間に合っていると思うのに手が届かないのだ。

 せめてラリーに持ち込みたい。ここは恥を忍んでお願いしよう。途中まで神尾選手はスマッシュなしの特別ルール。それでも、前に後ろにとほんろうされて“ダウン”の連続だ。最後には、僕のコートを彼女の4分の1まで狭くしてもらったが、それでもまったく勝負にならなかった。

 太刀打ちできなかったのは「駆け引き」「だまし合い」の部分だろう。不思議だったのは、狭くしてもらったコートでも、とんでもなく広く感じたこと。コートの中での自分の立ち位置がわからない。ボクシングはまったく逆で、リングに入れば途端に狭く感じて全体が把握できる。でも、4分の1になったバドミントンのコートはリングより狭いのに、まったく空間が把握できなかった。

 それは神尾選手が数センチ単位のコントロールで、僕が打ち返せない場所を狙っていたからだろう。打ち返せばネットにかかる場所、届きそうで届かない位置。前だと思えば後ろ。フェイントだと思えばスマッシュ。クリアだと思えばフェイント。

 しかも、同じフォームで打ってくるから判断が難しい。相手の目を見ていても振り回されるばかり。これが中学1年生とは末恐ろしい。あれだけ細かい作業を駆使できるのは、毎日の地道な努力の積み重ねしかない。

 やってみるまでは、反射神経のスポーツというイメージだったバドミントン。でも、実際に挑戦させてもらってわかったのは、この競技は「頭脳戦」だということだった。藤原監督も「バドミントンはだまし合いのスポーツ」と言っていた。もちろん、その土台にあるのは、優れた反射神経と狙いどおりに打てる技術の正確性だ。

 シンプルに打ち合っているようで、バドミントンもボクシングも駆け引きが重要だというのは同じかもしれない。ただ、中学1年生にコテンパンにやられたことを考えれば、似て非なるものなのだろう。これからはテレビ観戦する時も、違った視点で見てみたい。(元3階級制覇王者)

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