柔道ジレンマ 五輪代表はベスト布陣へ再選考か、公平性優先で維持か…4月中に結論へ

 常に金メダルを宿命づけられる日本のお家芸として、全日本柔道連盟(全柔連)は難しい判断を迫られている。新型コロナウイルスの感染拡大により東京五輪は2021年7月23日~8月8日の新日程での開催が決定。各競技団体は今夏開催に照準を定めて強化プランを練り、代表選考を進めてきたものの、1年間の延期で対応策が急務となった。柔道は14階級のうち13階級で代表が内定していたが、選考を見直す可能性も浮上。4月中にも結論を出すとみられるが、ここで課題や論点を整理する。

 来夏ベストの布陣で臨むために選考を見直すか、一度出した内定を重く受け止めて維持するか-。全柔連は、強化と公平性のジレンマの中で対応を迫られている。

 柔道は拮抗(きっこう)している男子66キロ級を除く13階級で、2月の欧州大会が終わった時点で五輪代表が内定していたが、五輪が延期となり再選考論が浮上。卓球やマラソンなど内定選手の維持を早期に表明する団体が相次ぐ中、先行きが見えない状況に内定選手の一部からは疑問の声も出ている。

 男子60キロ級の高藤直寿(パーク24)はツイッターで「一度決まった選手と決められなかった選手が(再度)試合するのはメンタル面でアンフェア」と再選考は不公平であると主張。また、同100キロ級のウルフ・アロン(了徳寺大職)は「再選考になっても勝ち抜ける」と自信をのぞかせつつ、処遇が決まらない状況に「判断が遅い」と不満を表明した。

 一度“最も金メダルに近い”と評価されたにもかかわらず、なぜこのメンバーのままでいくと言えないのか-。選手の立場からすればもっともな主張だ。一方、選考スケジュールは全て今夏に向けて“逆算”されたもの。首脳陣からすれば、史上初の五輪延期で“大前提”が崩れたことも軽んじることはできない。強化責任者の金野潤強化委員長は「選手の立場になれば早く決めてくれという気持ちは理解できる」と認めるものの、全階級金メダルを目指す立場としては慎重にならざるを得ず「しっかり議論しプロセスを踏んで物事を決めないと」と熟議する必要性を説いた。

 もし内定を維持した場合、長すぎる調整期間が課題となる。不運だったのが、東京五輪に向けて整備した早期代表内定制度が裏目に出たことだ。リオ五輪までは五輪直前の国内大会を一律に最終選考会としていたが、疲弊する上に海外勢対策に費やせる期間が少ないことが問題だった。そこで昨年、国内選考会を待たずに早期に代表を決められる選考基準をつくり、女子78キロ超級の素根輝(環太平洋大)は昨年11月、その他12階級も今年2月の時点で内定となった。

 五輪開幕まで5カ月の準備期間で万全を期したが、新型コロナウイルス感染拡大、五輪延期は想定外だった。92年バルセロナ大会以降、全階級の代表が出そろってから開幕までの準備期間で最長だったのは00年シドニー五輪の139日間。今の内定選手をそのまま維持すれば、来夏の開会式まで512日、素根にいたっては607日となる。誰も経験したことのない長期の調整期間となるだけに、緊張感を維持しながら世界の勢力図の変化にも対応できるかは未知数だ。

 一方、選考を見直す場合にネックとなるのが今後の国際大会が未定であることだ。国際柔道連盟(IJF)は今年6月までの五輪予選が中断していることを受け、最長で21年6月末まで延長すると発表。それでもコロナ問題の収束が見えない限りは不透明で、選考材料となる大会が行われなければ再選考に踏み切る意義がなくなる。

 また、再選考となった場合、権利を剥奪された選手がスポーツ仲裁裁判所に訴える可能性もある。全柔連は再選考が法的に可能かを精査するとしており、問題がある場合は立ち消えの可能性もある。

 全柔連は今後、強化委員会で方針を出した後、4月15日の常務理事会で議論し、その後の理事会で代表選手の処遇を決定する見込みだ。公平性を重視して内定を維持した場合でも、来夏金メダルを獲れなければそしりを受けるのがお家芸の宿命。ただ、選考を見直すにせよゼロからではなく、一度内定した代表1番手には大きなアドバンテージを与えた“延長戦”にならなければならないと考える。

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