羽生「こんなもんじゃねぇぞ」2月の四大陸で4回転半挑戦示唆
「フィギュアスケート・全日本選手権」(22日、代々木第一体育館)
世界選手権(来年3月・モントリオール)代表選考会を兼ねて行われ、ショートプログラム(SP)首位の羽生結弦(25)=ANA=はジャンプでミスが続き、フリー3位の合計282・77点で2位にとどまった。SP2位の宇野昌磨(22)=トヨタ自動車=がフリー1位で逆転して合計290・57点で4連覇。田中刑事(25)=倉敷芸術科学大大学院=を含めた3人が代表に決まった。羽生、宇野は四大陸選手権(来年2月・ソウル)の代表にも選ばれた。来年からアイスダンスに転向する高橋大輔(33)=関大KFSC=は12位だった。
演技も、その後の言動も、どこかいつもの羽生らしくない。勝利へと向かう歯車がどこかかみ合わないまま、気付けば表彰台の端に立ち、胸には銀メダルがかけられていた。
「弱いなぁと。こんなもんです。弱っちいんで。悔しいです」
ふわりと宙に浮くような、美しいジャンプは見られない。冒頭の4回転ループで着氷が乱れると、中盤の3回転ルッツが2回転に。得意のトリプルアクセルでも転倒するなど、崩れた演技を立て直せないまま、2019年最後の「Origin」は鳴りやんでいた。
「諦めてはないです。最後まで死にものぐるいでした」。しかし何かがおかしかった。時折天を仰ぎながら、羽生は困惑気味に「わかんないです」と口にした。「ビックリしちゃって。自分の精神状態と肉体の状態が全部バラバラで、乖離(かいり)していた」。長距離移動を含めた5週3戦の日程は羽生の想像をはるかにこえた。描いていた勝利の方程式は機能しなかった。
宇野との直接対決で負けたのは初めて。日本人に敗れたのも、14年NHK杯までさかのぼる。しかし美しい敗者たれ。笑顔を浮かべて羽生は「初めてちゃんと負けたんで。すごくうれしいんです」と勝者をたたえた。「ホッとしている」とも語り、会見場では直接「おめでとう」と声をかけた。「これから胸を張って頑張ってほしい。全日本王者って大変だよ」と冗談交じりに語る一幕もあった。
しかし白旗を揚げた訳ではない。「プレッシャーから解き放たれた訳ではないけれど、確固たる自信やプライドはやっぱりある。追いかけて、脅かしてやろうと思う。こんなもんじゃねぇぞって」
その第1手が「僕自身のプライドであり、今の僕のスケートを支えている信念。絶対に跳びたい」と語るクワッドアクセル(4回転半)。2月の四大陸選手権(ソウル)出場を志願したのは「習得するステップにしたい」と考えたからだといい、夢の新技投入の可能性を示唆した。
「昌磨という壁があるので、思い切りぶつかりたい」。挑戦者として。しかし強き王者の心をしっかりと抱き、新たな武器とともにその舞台に立つ。