町田樹“氷上の哲学者”の言葉を聞け

 今、この男が面白い。ソチ五輪フィギュアスケート男子代表の町田樹(23)=関大=は、リンク上での感情あふれる表現力はもちろん、その独特のコメント、世界観から“氷上の哲学者”の異名を持つ。ドイツの哲学者ヘーゲルの『美学講義』が愛読書という23歳が見せてきた快進撃を、その“語録”とともに振り返る。

 快進撃は1つの言葉から始まった。

 『ティムシェル』

 「汝(なんじ)、治むること能(あた)う」と訳されるこのヘブライ語は、町田の今季ショートプログラム(SP)「エデンの東」の原作(ジョン・スタインベック著)に登場する。この言葉のとらえ方は人によってさまざまだが、町田はこれを「自分の運命は自分で切り開く」と解釈。昨年の開幕前の会見で今季のテーマとして披露し、他の出席者全員をポカンとさせた。

 ただ、まさしく今季の町田は自ら運命を切り開いていった。シーズン前の評価“ソチ五輪争い第6の男”から急成長を遂げ、3つしかない五輪出場枠をもぎ取った。その中で注目されていったのが、力強く、そして独特なコメントの数々だ。

 「僕にとって現状維持は退化」「さなぎからチョウへ、羽化するような進化をお見せしたい」。GPファイナルでSP最下位からフリーで巻き返し、4位に浮上した時には「昨日改めて気づきました。僕の立場は1歩でも下がれば、もうそこは死なんだと。SPの後に断崖絶壁を見ました。絶景でした。怖かったです」「『おい、町田樹、どうするんだ!』と自分に挑戦状をたたきつけた」と、異次元のコメントを連発。名言とともに五輪ロードを突き進んだ。

 これらの豊富なボキャブラリーを支えるのが、読書だ。「この競技はとにかく移動が半端ない。中学、高校の時に目覚めました」

 実家のあった広島のリンクが使えない時は福岡などのリンクに遠征。岡山・倉敷翠松高時代は実家の広島から新幹線で通学していた。移動のお供はいつも本。「読書はクリエイティビティが上がっていく感じがする。目で字を追い、紙をめくることが僕にとっての精神安定剤」と話す。

 また、表現者として言葉でも“魅せたい”という思いがある。「一流の人は言動にも個性がある」。最近はコメントが期待されることが多くなり、「やばい、ネタないってときもある」と笑うが「セルフプロデュースというかプロモーション上のキーとしてやってる」と演技者としての自己演出につなげている。

 目指すは「純粋芸術としてのフィギュアスケート」。SP「エデンの東」、フリー「火の鳥」とも長い構想期間を経て、五輪に向けて作り上げてきたプログラムで、「町田樹史上最高傑作」と胸を張る。「ソチに行く人間はメダルを狙うのが義務。金メダルを狙いたい」。不思議な魅力を持つ“氷上の哲学者”の言葉。ただのビッグマウスに聞こえない。

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