【68】甲子園見学が実現 アジア野球発展のカギはシンガポールにあり

 「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」

 日本高校野球連盟は2005年からアジアの野球の発展途上国に毎年ピッチングマシンを贈ることにした。最初はこの年にアジア連盟の20番目の加盟国となったミャンマーに贈った。翌年はモンゴル、そして中国と贈呈を続けてきた。予算は送料を含め100万円。連盟の佐伯記念国際交流基金が原資だ。

 実際に海外にマシンを送るとなると輸送方法や通関手続きなど厄介なこともある。

 そこで日本高野連に毎年助成金をいただいているミズノ、エスエスケイ、ゼットの3社から順次マシンを購入し、その輸送業務を支援してもらった。

 4年目を迎えて次の贈呈先にシンガポールを挙げた。東南アジア諸国の中では有数の経済発展国だ。シンガポールで野球が盛んになれば周辺国全体のレベルアップも期待できる。

 以前旅行でシンガポールを訪れたとき、観光地のセントーサ島に郷土歴史館があり、旧日本軍の蛮行をテーマにした蝋人形があった。非常に辛い思いで館を後にした。若い世代の人の中にも親族で犠牲になった人もいると聞いた。

 北京五輪のあと、野球が五輪種目から除外される事態になった。関係者がこぞって復帰に向け、世界各地で努力が続けられた。

 シンガポールのIOC委員、セルミャン・ウン氏は副会長も務める実力者だ。4年目の当番はミズノだったこともあり、当時のミズノの水野正人会長がIOCの会議に出席される機会に「マシンの贈呈」を打診してもらった。ウン氏は「有り難いがうちで野球はやっているか」というつれない返事だった。これは難しいと思ったが、全日本アマ野球連盟事務局にも手伝ってもらってシンガポール連盟の所在を確認、マシン贈呈を文書でも伝え、ミズノで発送してもらった。

 ところが一向に受け取った知らせがない。調べてみると保税倉庫で止まっているという。

 つまり通関税が必要で受け取りができていないという。そのとき活躍したのが在留邦人の内田秀之さん(69)だ。内田さんは名門、日大三~日大、そして社会人野球の松下電器でも活躍したバリバリの球歴を持つOBだ。アジア松下電器のディレクターを務める傍ら、現地の子供たちに野球を教えていた。

 マシンの話を伝え聞いて、必要なお金をかき集めて無事引き取られた。まだ野球人口は数えるほどで、マシンはそれこそ百人力だ。

 シンガポールは野球よりソフトボールが男女とも盛んだ。そんな中から選手を野球に勧誘しているが、この国ではもう一つ難しい問題がある。それは勉強の厳しさだ。

 先ごろのイギリスの教育専門誌が発表した世界の大学評価でアジア1位になったのはシンガポール国立大学だった。世界で23位、東大は43位だった。

 シンガポールでは、小中高校でそれぞれ一斉実力考査があり、ここで点数が悪ければ将来の道は限定される。したがって「教育ママ」からの期待は大きく、放課後のスポーツ活動は低調だという。

 そこで和歌山県など日本から訪問した高校生に「勉強と部活の両立」をテーマに現地の高校生と交流を企画し、野球を続けながら勉強も頑張ろうと背中を押した。

 内田さんの希望は、「シンガポールの選手に、日本の高校野球の姿を生で見せたい」だ。

 今回その思いがかない、8月14日から1週間、選手15名を引き連れて関西にやってくる。大阪の宿舎事情が大変なので、滋賀県連盟の協力で琵琶湖畔に泊まる。そして15日は甲子園見学、正午の黙とうも体験してもらう。

 4万人の観客と一緒に黙とうすることで平和の尊さをかみしめてもらいたい。

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