【65】金属製バットをゴミにしない 国を動かした教育としての再利用の取り組み

 「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」

 金属製バットの採用は経済的に大きな効果を上げることができた。しかし当初からずっと気になっていたことがあった。使用済み金属製バットの処分だ。

 金属製バットは可燃物として処理すると空洞部の空気が膨張して破裂する恐れがあり、不燃物として処理されてきた。山梨県のある学校では中庭の花壇の柵としてバットを地中に埋めて利用しているという話も聞いた。

 当時、年間10万本が消費されるといわれていたので何か抜本的に対策が必要だった。

 さまざまスポーツで使用されている用具で、資源として再利用可能なものは余り見当たらない。金属製バットはアルミ合金で、溶解して金属製バットに再生できるわけではないが、アルミ合金を素材とする鋳造品に再利用できるという話も聞いた。

 産業廃棄物の処理は国家的重要課題だ。加盟校にむやみに使用済みバットの投棄をさせないようにしなければならない。

 そこで全日本野球用バット工業会と協議、全国9ブロックごとに再生処理工場を選定、加盟校には夏の大会の抽選会や開会式などの行事に合わせて使用済みバットの集荷を呼び掛けることにした。

 こうして金属製バットのリサイクル運動は、1992年7月、夏の選手権大会前に始まった。1378校が2万1999本を持ちよった。

 当時の紙面は「高野連がリサイクルヒット」と評価してくれた。

 その後も、3~4年ごとに実施したが、2002年6月、4回目の回収計画を進めていたところ、環境省から「待った」がかかった。廃棄物処理法の規定で、産業廃棄物は産廃の収集・運搬許可を持たなければ運送できず、県を越えての搬送はできないという。

 早速環境省の窓口である廃棄物・リサイクル対策部に掛け合った。「使用済み金属製バットは廃棄物ではなく、資源として再利用しているので有価物だ」と主張したが、担当者は「金属くず」だと譲らない。

 それまで宅配便の業者を利用していたが、産廃収集・運搬許可は持っていない。

 環境省と数度の折衝をしたがらちが明かない。

 そんなあと、朝日新聞東京本社に立ち寄って運動部の担当記者にぼやいた。環境省担当記者を呼ぼうと言ってくれ、それまでのいきさつを説明した。

 数日後、「リサイクル思わぬ壁」と紙面でこの事態が報道された。

 すると数日後環境省から電話があり「次回上京の機会がありますか」と聞いてきた。7月22日に文部科学省で薬物乱用防止委員会があり上京予定と伝えると、是非環境省に立ち寄って欲しいという。

 当日伺うと、奥から役職者も出てきて「上の階にご同行願いたい」という。不審に思いながらついていくと何と環境省大臣室の前に来た。「大臣にお会いするのですか」と聞くと、是非お呼びして欲しいという。

 部屋では当時の大木浩大臣が笑顔で待っておられ、手すきの和紙にご自身の自筆署名が入った「高校野球の金属製バット再生のための取り組みについて」と題する文書を手渡された。

 「高校野球の使用済みバットの再生は、高校生が物の大切さを学ぶ上で大変有意義だ」とこれまでの取り組みを推奨する内容だった。

 大木大臣は「実は首相官邸から是非高野連のリサイクル活動を実現させるようにと指示があった」と明かされた。あの朝日新聞の記事を小泉純一郎首相が見て再検討を指示されたという。

 使用済み金属製バットは再資源化可能な「有価物」で産廃の収集・運搬許可のない事業者でも取り扱いができるという解釈を再考してくれた。

 金属製バットのリサイクルはこれまで5回実施され、7万1508本が再利用されている。今年7月にもまた回収を予定している。

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