【64】ボールの規格統一 受傷事故防止と国際仕様との両立に挑戦

 「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」

 高校野球で金属製バットを採用したのが1974年のシーズンインからで、すでに42年になる。

 現在の金属製バットは、2001年に打球部を細くし、その部分の金属の肉厚を厚くしたので耐久性は格段に向上した。しかし、マシンの使用などで打撃技術も上がった。打球の初速が速くなり、投手への受傷事故がいつも気になっていた。

 バットの性能を抑えたが、あとはボールの反発力が何とかならないかと考えた。ボールは、公認野球規則で重量と大きさ(円周)が決められている。コルクとゴムでできた芯に糸を巻き付けた後、牛革で縫い合わせると規定されており、糸巻きを緩くすると反発は低下するが、重量が不足し、すぐに変形する。

 一方、糸巻きをきつくすると反発が高くなり、重量も超えることになる。だから糸巻きの具合は実に微妙だ。

 あるメーカーは純毛を使っているから弾性があって変形しにくいというが、混紡だと反発は落ちるが、使っているうちに早く変形するという性質もある。

 05年からプロ野球で「低反発ボール」が使われた。低反発の主要因はミズノ社が採用したコルク・ゴム芯で従来より反発を抑えたものだという。

 生卵を上から落としても割れないゴムもあるという。一方、前年の04年アテネ五輪で使用された国際野球連盟公認球は、縫い目が高く、国内で使われているものとはかなり感触が違っていたという。「サッカーやラグビーなど他の球技で国によってボールの規格が違うというようなことは聞いたことがない。なぜ野球は違うのか」と批判も聞こえてきた。

 コルク・ゴム芯とボールの縫い目の統一という課題が見えてきた。

 スポーツメーカー各社は「メーカー各社が品質を統一するというのは大切なことだ」と賛成してくれ、日本硬式野球ボール商工会(加盟16社)が旗を振ってくれた。

 競技団体側は大学、社会人と少年野球3団体にも声をかけた。05年5月と7月の2回、中澤佐伯記念野球会館に全員が集まり規格統一を協議した。「加盟チームの意見も聞かねば」という団体もあったが、あくまで競技団体が主体的に判断すべきではないかと主張した。

 主目的は「国際大会と同一基準」、「投手の受傷事故防止の一助となるよう反発を抑える」の2点だ。

 この協議中に分かったことがある。まず新たに採用するコルク・ゴム芯は、MLBが採用しているものとほぼ同じ低反発だった。

 4メートルからの落下試験で1・8メートル~2・0メートルの跳ね返り。従来より0・4メートルほど反発が低い。

 次に高校野球では縫い糸に麻が使われていた。水ぬれに強いのが採用理由。しかし綿糸もあればビニロンもあった。国内各社はいずれも0・6ミリの太さを使っていた。結局縫い糸は、生産拠点の多くが海外に移っていることもあって、海外でも調達が容易な綿糸とし、0・2ミリ太くし0・8ミリで統一することにした。

 ところでボールの縫い目が高くなるとボールの反発性能に影響があると分かった。これまで金属製バットなど用具の安全基準制定に参画していただいた小林肇先生(元東京大学工学部)によれば、縫い目が高くなれば、ボールの面積が多くなり、空気抵抗が増して打球の飛距離に影響を与えると考えられるということだった。

 このように目標とした内容が満たされることになり、05年9月29日、すべての硬式野球7団体とボールメーカー16社で合意した。翌年06年秋から市販態勢を整え、07年シーズンインから一斉に採用することになった。野球界で画期的な統一が達成された。もちろん価格は据え置きで。

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